今日の兄さん(2013年)
□12月3日
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司令部から帰宅したアルフォンスを、出迎えに玄関に出たエドワードは、違和感に気がついた。
「なあ、おまえ・・・太った?」
「え、ああ・・・」
そんなはずはないだろ。
12時間程度でそんなに腹が出るのは、大食い選手権か病気くらいしか思い浮かばない。
「これは「にゃあ」」
「・・・にゃあ?」
アルフォンスの腹が動く。
と、観念したように緩めた軍服の襟首から、ふわふわしたものが飛び出てきた。
「猫・・・」
「寒そうだったから!すぐ里親さん、探すから!」
「おまえなあ・・・」
アルフォンスが猫好きなのは、いや猫に限らず生き物好きなのは、旅していたときから知っていたが、当時はそんな、ペットを飼う余裕なんてなかった。
旅を終えて、普通の生活になった現在でも、仕事上留守がちなのでペットにとってはあまりよい環境ではないため、未だに一匹も飼ったことはない。
「ちゃんと探すから!それまで、家にいさせて!お願い、兄さん!」
子猫よりも子猫のように、最愛の弟からすがるような目で見られれば、エドワードだって溜め息つきつつ、降参するしかなかった。
☆ ☆
「ただいまー!」
「おかえ「にゃあ!」」
出迎えたエドワードよりも早く、猫がアルフォンスに擦り寄る。
「んー、いいこにしてた?」
ふわふわとした毛玉のような子猫を抱き、満面の笑みで頬ずりしている。
「ただいま、兄さん」
「・・・おかえり」
猫の次に扱われたようで、なんとなく面白くない。
かといって、子猫にヤキモチなんて、人間の尊厳にかかわる。
「風呂沸いてるぞ」
「ふふ、可愛いなあ・・・あ、兄さん、何か言った?」
「風呂」
それだけ言って、キッチンに戻る。
面白くない。
面白くない。
ものすごくイライラする。
あの日子猫を拾ってきた日から、アルフォンスは子猫に夢中になっている。
たしかに、あのふわふわした感触は最強の癒しだ。
家の中にいても、あまりヤンチャしないし、里親が見つからなかったらこのまま飼ってもいいかな、なんて思うときもある。
でも、やっぱり、エドワードにしたら面白くない。
だから、風呂上りのアルフォンスの真正面から言ってやることにした。
もう人間の尊厳とか恥とか、その他諸々どうだっていい。
「アル!」
「なに、どうしたの?兄さん」
「オレを構えよ!」
「へっ?」
首にぶら下げていたタオルで、アルフォンスの頭を引き寄せる。
「構えってば!」
アルフォンスの応えを待つのも惜しく、自分の唇を重ねてやった。
「兄さん、どうしたの?」
余裕でニヤニヤしている弟を、殴ってやりたい衝動にかられた。
「猫にはこんなキスなんて出来ないだろ?」
もう一度、エドワードからのディープ・キス。
「・・・猫とキスなんてしないよ」
アルフォンスも、エドワードを腰をホールドしながら本気のキスをしてみせた。
口内の性感帯を刺激するアルフォンスのせいで、エドワードの体は震え、目はゆるゆると溶けたようになっていく。
「兄さん、可愛い」
猫に嫉妬しちゃったの?
などと聞かれて、はいそうですなんてエドワードには言えない。
だってまだ、兄としても人間としてもプライドがある。
「・・・くっそ・・・」
「ごめんね、最近ゆっくりベタベタしてないもんね」
「うるせえよ、バカ弟。さっさと離しやがれ」
構えって言ったのは、誰だったのか。
珍しく嫉妬した兄のは、頬を膨らませ、眉間を寄せて、目だけは潤ませている。
まったく、どんなツンデレなんだか。
素でこれだから、侮れない。
子猫より何より、兄が可愛くて仕方が無い。
アルフォンスのニヤニヤ笑いが止まらない。
「大好きだよ、兄さん」
だから、子猫の里親さんが見つかったなんて、明日の朝まで教えてあげない。
終わり。