今日の兄さん(2013年)
□12月1日
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休日出勤を余儀なくされていたエドワードは、医務室に吊るしてあるカレンダーをふと見た。
「もう12月なんだな。今年もあと一ヶ月じゃん」
そう思うと、なんだかヤバイ気がした。
嫌なドキドキだ。恋する乙女じゃあるまいし、誰かにときめいてるわけではない。
「どうすっかな」
と思っても、別段どうしようもない。
強いて言えば、締め切りが目前に差し迫った書類と、デスクに散らばったカルテと、ミーティングテーブルに出したままになっていた今日の朝食予定だった既に干からびつつあるサンドイッチを、アルフォンスに気付かれないうちにどうにかしなければならない。
「はあ・・・あいつ、来ないよな?」
アルフォンスに怒られるのは、あまり好きじゃない。好きじゃないってより、苦手だ。ただ怒るとかではなく、自分の事を心配してくれてるからこそだ。
とりあえず、サンドイッチをどうするか。これが一番、アルフォンスに見られてまずいものだ。確実に。
そう、持ってきたときの紙袋に戻し始める。
トントン。
ガチャ。
ノックの音と、扉の開く音に、心臓が痛いくらいドキッとしてキュンとした。
「失礼します。兄さん?」
体まで硬直して、目が空を泳ぐ。
どう言って誤魔化すか。隠すか。
素直に白状してしまうか。
「・・・それ、今朝持っていった朝食だよね?」
キタ。
「あ、ああ、そのな、食べようとして出しておいたんだけど、急に電話が入ってさ」
無言で聞いているアルフォンスが怖い。
薄く微笑んでいるのが、尚更怖い。
「忘れちゃたんだ?」
「・・・ごめん」
誤魔化すことも、隠すこともできずに、素直に全て白状してしまう。
突き詰められれば、電話の内容から今現在に至るまでのタイムレコードまで白状してしまいそうだ。さすが中佐様だ。尋問には慣れている。一介の医者風情が、隠せるはずは無かったのだと、エドワードが自分自身の甘さを慰めた。
「まあいいよ。食べてないなら、今からランチに行こうよ」
「いや、まだ・・・」
「行こうね」
にっこり微笑む弟は可愛い。
でも怖い。
でも可愛い。
収まっていた鼓動が、再び激しくなる。
ドキドキドキドキ。
手を引かれるままに、廊下に出る。
目指しているのは食堂だろう。きっと、たぶん。
今日の日替わりランチメニューは何だったっけと、ぼんやり考える。
デザートがついている特製ランチにしようか。
「なあ、アル・・・」
「今日は車を用意したから、外で食べようね」
ドキドキドキドキ。
ドキドキドキドキ。
この胸の鼓動の理由は、いったいなんだろう?
終わり