スクール革命

□【番外】梅雨前線
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 梅雨入り宣言が出されてからというもの、部屋の中もなんとなく湿っぽい。
 雨は降ってないのに、一気に湿度が上がったような気がした。
「兄さん、食欲無いの?」
「うーん・・・なんか風邪っぽいかも」
 ダルそうにしている兄の額に手を当てたが、熱はまだ無さそうだ。
 元気の無い兄さんも、かなり可愛い。可哀想だけど、ドキドキするのは仕方ないと思う。「守ってあげたいスイッチ」が、がっつり押される。
「今日は寝てる?」
「どうすっかな・・・出かける予定入ってるんだけどなぁ・・・」
 土曜日なのに、学校でもない用事があったと聞いて、僕は少なからず動揺した。
「それ、明日とかにできないの?」
「今日、約束してるんだ」
「じゃあ、キャンセルとか。具合悪いなら、仕方ないじゃない」
 これは、決して嫉妬とかヤキモチとか独占欲からではない。あくまでも兄さんのことを心配してるからだ。
「キャンセルか・・・うーん・・・」
「雨も降ってきそうだしね。家で寝てたほうがいいよ。欲しいものがあったら、買ってくるから」
 まだ煮え切らない様子に、苛立ちを感じた。
 そんなに大事な予定だったのだろうか?
 こうなったら、実力行使でベッドに放り込んでしまおうかと思ったとき。
「じゃあ・・・また今度にする。電話する」
「うん。そのほうがいいよ」
 ようやく胸を撫で下ろした。
 そうして観察すると、食欲はまだあるようだ。サンドイッチとスープの朝食も、すっかり平らげている。ああ、でも具合悪くなったときのために、ポカリとか野菜ジュースとか口当たりの良いものを準備しておくほうがいいかな。野菜をコンソメで煮ておくとか。そういえば、この前、英字のパスタを買ったっけ。それ浮かべてあげようかな。兄さん、興味あるようだったし。キャンデルスープのミネストローネと、どっちがいいだろう。キャンデルスープなら、オニオングラタンスープもあるけど、あれはちょっと甘いような気がする。コンキリエとかのパスタを入れればいいのかな。いや、だったらオニオングラタンスープ作ってあげようか。チーズ控えめにすれば、大丈夫だと思うんだけど。
 あまり具合の悪くなったことがない僕には、加えて父親も刺しても死なないくらい頑丈だったので、看病とかその類がいまいちわからない。
 兄さん、どうやら不自由なほうの左脚も痛むようだし。マッサージとか覚えておけばよかった。いや、これから覚えよう。
 つらつら考えていると、車椅子を動かして、兄さんは電話の子機を持っていた。
 ああ、キャンセルの電話か。やっぱり相手がいたんだ。
「じゃ、来週の火曜日の午後に。いや、ちょっと具合が悪くて。なんかダルいんで、今日は引きこもって寝てようかなって」
 来週の土曜日には、どこかに行っちゃうのか。つまんない。僕も一緒に行っちゃダメかな・・・ダメだろうな・・・寂しい・・・
「ヤダ。だって、内科って混むんだもん。今からだと、何時間かかるかわかんないし。そんな体力使うのもったいないし。具合良くなったら行くから。じゃあ、来週!」
 そんな感じで電話を置いた。
「ね、どこ行く予定だったかって聞いてもいい?」
「病院。リハビリの予定だったんだ。今、オレ担当の理学療法士の先生と話して」
「病院?」
 あれ、さっき『具合が悪いから行かない』とか言ってなかったっけ?兄さんん・・・
「来週の火曜日にしてもらった。学校、午後から早退して行ってくるから」
「あ、うん、それはいいけど・・・」
 普通、具合悪いから病院行くんじゃなかったっけ?内科受診って、そんなに体力必要なもの?
「オレ、寝るな〜」
 自室に戻ろうとする兄さんの車椅子を、押しながら考えた。
 病院って、元気になったら行く人もいるんだね。
 なんだか目からウロコが落ちたような土曜の朝だった。



終わり

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