桜祭り・2013
□3月2日
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3月に入って、ずいぶん暖かい日が続くようになった。
何か悪いもんにでも取り憑かれたように就職が上手くいかなくなったオレは、毎日が日曜日で過ごす中、家主で恋人であるアルフォンスの希望を叶えるべく、こうしてデートの待ち合わせをしていた。
所謂デートスポットという場所では、オレの他にも恋人を待つ男女でごったがえしている。
「・・・そろそろかな」
モデルの仕事で忙しいときでも、待ち合わせ時間に遅れそうなときは、必ずメールしてくるアルフォンスだ。それが今日は無かったので、仕事もたぶん順調に進んでいったのだろう。
そんな風に考えていたら、視界の隅に見覚えのある姿が現れた。
相変わらずの女の子らしいスカート姿で、女の子らしいバッグを持って、男らしくドカドカ走ってくるアルフォンスは、見慣れたせいもあって微笑ましく思える。
いいんだ、もう、オレ。なにか変だ妙だ違うと思ってても、長いもんには巻かれて、素直にアルフォンスは可愛い存在だと思うことにするから。
「待った?ごめんねっ、うわっ!」
「わっ」
いきなり、ビル風かと思うような、生暖かい突風が吹いた。
春一番か。そんな季節になったのかと、アルフォンスの捲れるスカートを見て、うっかりぼんやりしてしまった。
「・・・白」
「ちょーラッキーなんですけど・・・」
囁くように呟くように聞こえてきた男性と思われる声は、いったい誰のものなのか。
確かにアルフォンスは白い下着だったが、野郎のボクサーパンツでそんなにラッキーなものなのか?
「もうっ、すごい風だね!」
スカートを押さえながら、アルフォンスがオレを建物の中へと誘導する。
「え、あいつがカレシ?」
「あんな可愛い子なのに、マジかよ」
こんな言葉だって、慣れたもんだ。もう、あとちょっとで、羨ましいかと開き直れる境地になれるような気がする。
「僕の下着、見えた?ドキドキした?」
こそっと囁いてきたアルフォンスに、首をぶんぶんと横に振る。
それが気に入らなかったのか、アルフォンスの目の奥に冷たいものを見てしまい、背筋にツララを突っ込まれたような寒気を感じた。
「・・・今晩、楽しみにしててね」
背筋ではなく、人様には言えない箇所に、人様には言えないアルフォンスのものを突っ込まれることが確定して、身体の芯が発熱してくるのを感じる。
明日の、仕事の面接もたぶんダメだろう。午前中にアポ取ってしまったのが悔やまれる。失敗した。またしばらく無職の日々が続くのかと思うと、ちょっと悲しくなる。
それでも、オレはきっと幸せなのだろう。
上機嫌で隣を歩くアルフォンスをチラリと見て、苦笑した。
終わり。