今日の兄さん(2012年)
□12月9日
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「十年愛 2」
そんなに積もることはないが、雪がちらつくことが多くなり、いよいよ冬も本番になってきた。
昼間は仕事をしながら、夜は会話をしながら、ゆっくりと時間が流れていくのも悪くないと思い始めているエドワードだ。
もう少しすれば、人の行き来もなくなるくらい雪の世界になるのだろう。
どうあがいたって、自然の力には敵わない。せめてこうして備蓄して、温かい季節の訪れを待つことしか出来ない。
この地の住人にとっては、閉ざされた環境になる。家族と、あるいは一人で、じっと時が過ぎていくのを待つのは、多くの人にとっては苦痛なことだ。語るにも本を読むにも、あり余る時間との戦いの季節になる。
それでも、仕事を終えて入る風呂は気持ちいいし、兄弟二人きりであれこれ煩わしいことを考えなくてもいい生活は、苦行というよりひと時のバカンスのようだった。
暖炉の薪がはぜる音しかしない食卓も悪くない。
「兄さん、手を、」
食事を終えて、珍しく酒に酔った様子の弟が、席を立ち、まだ酒の飲み終わらないエドワードの傍で恭しく頭をたれた。
訳もわからず手を差し出すと、思いのほか強い力で引き上げられて、胸に抱かれた。
「何だよ!まだ飯食ってんのに」
「ダンス、付き合って。」
身体を密着させたまま、弟が緩やかに揺らしだす。
「踊れねえよ。できないって。」
「大丈夫。こうしてくれているだけでいい。」
ゆっくりと、ステップを踏む足元を、エドワードがたどたどしく辿れば、アルフォンスはその額に唇を寄せて、更に身体を強く抱きしめた。
「僕だけ感じていてくれれば、それでいいから。目を閉じて。」
音楽など何も必要でない。
暖炉で炎が空気を揺らめかせ、二人の影が甘く重なる。
「これはダンスなのか?」
「ダンスだよ」
互いの優しい鼓動が、響いていた。
命が奏でる音だけが紡ぐ空間は、なんと心地よい場所だろう。
「アル・・・」
「しっ・・・」
名前を呼ぶことさえも禁じるように、アルフォンスのキスがエドワードの唇を塞ぐ。
求め、応え、時間が止まってしまったかのように、甘美なその行為を味わう。
そして、再び視線が絡めば、求める先は一緒だ。
エドワードの体が、心ごとアルフォンスに委ねられる。
愛しているよと、指先が伝えた。
終わり。