今日の兄さん(2012年)

□12月7日
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「痛っ!」
眉間を寄せて右中指を見たエドワードは、しきりに指の腹を気にしている。
「先生、どうなさいました?」
「トゲかなあ…チクッとした」
「見ましょうか?」
トリアがそう言って、毛抜きを出してくれた。
「いいよ。自分で取れる」
エドワードは両ききなので、こういう時は便利だ。
受け取った毛抜きで、簡単にすいっと抜いてしまう。
「なんだろうな?なんか刺さった」
「ちょっと気をつけておきますね」
「ああ。じゃ、食堂行ってくる」
ごゆっくりと見送られた。
食堂に着けば、まずはアルフォンスを探してしまう癖は仕方ない。
アルフォンスだって、エドワードの気配には敏感だ。
「兄さん」
コッチコッチと、空いている隣に呼んでくれる。
いつものように、トレイを受け取ってくれるアルフォンスの仕草も自然だったので、気づかなかった。
「中佐、ドクターに診ていただいたらいかがでしょう?」
「いや、たいしたことないから…」
「なんだ、ケガしたのか?どこだ?なんですぐ兄ちゃんに診せないんだよ!」
せっかく持ったフォークを投げ出した兄の泣きそうな顔を見て、部下の余計な一言を忌々しく思う。
「トゲ刺しちゃったみたいなだけだから。心配しないで」
「トゲ?オレもさっき刺して・・・取った。どれ、見せてみろよ」
 嬉しくもあったが、兄の手を煩わせることへの自分に対しての忌々しさもあ、り、更にはトゲのチクチクした不快感もある。複雑そうな気分まんまの表情で、右手の中指をその親指で示しながら差し出した。
 エドワードは、それを嬉しそうに自分の手で添えて、顔を近づけて診る。もちろん、左手には何の気なしにポケットに入れて持ってきてしまった毛抜きを構えている。
「うーん・・・見えないなあ・・・」
「大丈夫だって。そのうち取れるよ」
 唸りながらそこを睨んでいたエドワードだったが、次の瞬間躊躇いもなく、アルフォンスの指先に唇を寄せた。


 ちゅ。


「あ」
「あ」
「あった」
 部下とアルフォンスとエドワードの声が重なった。
 吸ったことによって少しだけ出たトゲの頭を、しっかり毛抜きで掴んですっと抜いてしまった。
「ほら、どうだ?」
「ありがとう。うん。大丈夫」
 消毒したほうがいいという兄を制して、食事を促す。
 そんな、消毒なんてもったいないことしたくない。
 他愛も無い話で紛れさせて、二人の会話に勤しんだ。
 自分の指先を何かを探すように凝視する軍人に囲まれながら、アルフォンスたちは幸せなひと時を過ごした。




終わり。

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