今日の兄さん(2012年)
□12月6日
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「愛され女子のモテ☆コーデ」
「クリスマス キラキラ★メイク」
「冬 ラブキュン小物使い」
コンビニで無駄にラメの入った文字に囲まれて微笑んでいるのは、つい今しがたオレを玄関で見送った、所謂恋人のアルフォンスだった。
溜め息をついて視線を外せば、別の見知った顔が目に入る。
「誘惑★美メイク」
「X’mas 恋愛コーディネート」
スカーというアルフォンスと同業してる男が、ニコリともせずに仁王立ちや睨みつけている雑誌があった。
聞いて驚け。男二人で暮らしているのに、女性ってかティーン女子向けの雑誌が山積みなってるんだぜ。なんか違うよなあ?
もっと、こうさ、オネーチャンが冬なのに寒くないのかって思うような水着で表紙飾ってる雑誌とかさ、こう・・・趣味の雑誌とか?いろいろあるよな。なのに、ウチでは、Kyam-KyanとかSoupuとかZapparとか、変じゃね?友人知人に乗り込まれたら、変態と言われて疎遠にされること間違いなしな部屋環境だった。
おまけに、コンビニではアルフォンスがプロデュースしたという化粧品だかなんだかのセットが売られるようになって、ほぼ居候の身としては、甚だ居辛くなっている。
だからって、必要なもの買ったらすぐ店出るような、コンビに愛を満喫していないというのも変だよな。オレはこんなにコンビニが好きなのに。
「ああ・・・いっそ、コンビニでバイトってのもありだよな」
24時間営業だから、昼間は別で働いてても、他の店で働くことも出来そうだ。
よし、帰ったら、アルフォンスに相談してみよう。
最近のあいつは、ちょっと可愛く見えたりするが、隙を見せると野獣に豹変する。油断できない。でも、ここで黙ってバイト決めて、事後承諾とかになったら、どんなことされるかわからない。
「さて・・・あ、スイーツ見てこないと」
自分の炭酸飲料と、アルフォンス希望のミルクティーをカゴに入れて、もう一つの買い物を思い出した。
スプーンで食べるロールケーキを、迷ったので4種類入れて、レジのほうへ持っていった。
会計を済ませて、手に袋をぶら下げて歩く
外に出ると、北風が骨身に染みるようだ。
もっとも徒歩5分くらいだから、凍えるには至らない。
「おかえりなさい、エド」
「ただいま、ロールケーキ、わかんないから4種類全部買ってきた」
「どれでも良かったんだよ。でも、あとで一緒に食べようね」
今日のアルフォンスは、すこぶる機嫌が良くて、一緒にゲームしようかとか膝枕してもいい?とか聞ける程度だ。
もちろん、オレが膝枕してもらう方だから。
あいつの膝枕は、頭がほとんど直角になるんじゃないじゃって思うくらいの高さで寝心地はすこぶる悪いのだけど。オレを膝枕して、髪を撫でるのが好きなんだそうだ。髪も、そのせいで、アルフォンス厳選シャンプーしか使わせてもらえないので、必要性を感じないのにサラサラ艶々な髪に変貌したせいで、近頃は後ろから野郎にナンパされることが増えた。まあ、それも仕方のないことだと、スッパリ諦めている。
とりあえず、コンビニバイトの件は話すなら今だと、アルフォンスに声をかけた。
「あ、アル・・・いや、なんでも無い」
首を傾げながら、キッチンで振り向いたアルフォンスの手には、刃渡り30センチくらいの包丁があった。
機嫌がいくらよくても、一瞬で沸騰することだってあるし、オレはそんなにチャレンジャーでもない。
それからというもの、タイミングがいい具合に合わず、なかなか夜中のコンビニバイトのことが言い出せぬまま、無常にも時は流れていき・・・
コンビニにも新しいバイトが入ったようだ。店の張り紙が消えていた。
「アル、オレ、無職長くなるかも」
「いいよ。僕がいるから安心して」
ベッドでダルくなった体で抱き合い、脚を絡めながら、やっとのことで御機嫌最上級のアルフォンスに告げたのは、オレの望みとは裏腹な言葉だった。
終わり。