今日の兄さん(2012年)
□12月5日
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ふと、名前を呼ばれたようで目が覚めた。
「あ、やべぇ」
書類に目を通しながら、ついうたた寝してしまったようだ。眠い目をこすりながら、意識を覚醒させる。
毎年のことだが、この時期は東方の支部からの書類も多く集まってくる。年末総決算というやつだ。
おかげで今日は残業だ。というか、徹夜仕事になるだろう。
別に仕事を溜めていたわけではないのだが、支部の軍医たちも日常の仕事などがあるので、つい締め切りギリギリに集中して提出させることになる。
それはエドワードも例外ではなく、しかし提出日は待ってくれないので、こうして夜中にまで仕事に追われることになってしまうのだった。
「なんか・・・腹減ったし・・・」
オヤツにしているクッキーを2、3枚摘んで、ついでにコーヒーで睡魔をぶっ飛ばす。
「ああ、もうこんな時間かよ」
時計を見て、これも3時のオヤツだなと呟いた。
「アルに会いたいぜ、ちくしょー!」
ふとしたことで、寒くはないのに、体が寒いような気がして。
「呼んだ?」
「わぁ」
医務室にひょっこり顔を出したのは、今まさに名前を呼んだアルフォンスなわけで。
「なんだよ、なんの用だよ」
怖いくらいのタイミングの良さに、叫んだことを聞かれたかと、照れ隠しにぶっきらぼうに言ってしまった。
「兄さんの顔を見たくなっただけだよ」
「サボリか」
「休憩って言って」
弟のほうが堂々としている。
「書類片付けられるのはいいけど、座ってばっかじゃ眠くなっちゃってさ。兄さんのコーヒーが飲みたくなったんだ」
アルフォンスの部隊も、今日は出動もなく平和に過ごせていたらしい。
「丁度良かったぜ。今、淹れたとこ」
「ほんと?」
盛大に湯気のたつマグカップを渡してやった。
「ありがとう」
礼を言いつつ、エドワードの頬にキスをする。
抜け目の無い弟だ。
「美味しい」
「オレが淹れたんだから当然だ」
それに対しては、アルフォンスは肯定とも否定をもつかない笑いを漏らした。
「兄さん」
「んだよ」
マグカップをテーブルに置いて、代わりとばかりにエドワードの腰と頬に手を出す。
「キスくらい、してもいいでしょ?」
「キスだけならな」
言い終わるか同時に、唇を塞がれた。
「ん・・・んぁ・・・」
「ふふ・・・」
何度も繰り返されるキスは、もはや「キスくらい」のレベルを超えている。
「んん・・・んっ・・・おまえ、いい加減にしろよ」
「どうして?感じちゃうから?」
寝不足の頭にキスで回った思考は、エドワードの気持ちなど考えずに表情で答えてしまう。
「真っ赤だよ」
「うるせーよ」
十代のガキじゃあるまいし・・・と顔から体へと伝播する火照りを抑えて、アルフォンスから目を背けた。
「ねえ・・・」
「・・・ダメだ。オレ、仕事終わってな、あっ」
「なんだ、ここは反応してるじゃない」
下半身を服の上から弄られれば、あっという間に服の下のものが形を変えて主張した。
「ダメだって!ああっ」
「僕だって、こんなだし。ちょーっと協力してくれれば、すぐ終わるよ。ね、兄さんも付き合ってよ」
同じように軍服の下でいきり立つ剛直を脚に押し付けれて、すらすらとまるで用意してきたかのようなセリフに脊髄が沸騰した。
「ちょっと運動したほうが、仕事も効率がいいよね」
「っ、知るかよ!あんっ、あ、あぁ・・・」
真夜中の強姦魔と化した愛しい弟の腕の中は、酔ってしまえとばかりに心地よかった。
「・・・知らねえぞ・・・ぁっ・・部下が探しに来ても・・・」
「大丈夫だよ」
そんな簡単な言葉で流された。
幸福そうに微笑む弟を、エドワードも恋人にだけ見せる笑顔で受け止めた。
終わり