今日の兄さん(2012年)
□12月4日
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寒くなってきたからか、最近のエドワードは自宅に引きこもっているようで、かなり大人しい。
月の綺麗な夜はコンビニにプリンやヨーグルトを買いに行くが、それも月が欠けるにつれて出歩いている時間が短くなっていった。
「・・・よし!」
吸血鬼といえど、たまにはちゃんと精力のつく食事をしなければいけないのではないか。
朝食はヨーグルトにミキプルーンやジャムなど入れて毎日摂るようになってくれたが、アルフォンスのいない昼間などは抜いている可能性もある。
夜だって、アルフォンスの半分くらいしか食べない。
エドワードに言わせれば、吸血鬼は胃弱な者が多いらしく、血液が一番消化しやすい流動食のような物なんだそうだ。
それかと言って、アルフォンスが首を差し出しても、頑として吸血しようとしない。
ならば、仕方ないじゃないか。別の方法で、滋養をつけてもらおうと思う。
「・・・そのテンダーロインを400グラムお願いします」
めったに行かないデパートの食肉売り場で、最高級某所和牛のヒレ肉を購入した。
これなら柔らかい部位だし、血のしたたるようなレア・ステーキにしたら、胃弱吸血鬼の兄だって喜んで食べるのではと考えた結果だった。
イタリアンレストランのアルバイトをしているアルフォンスには、少し懐に響く買い物だったが、兄のためなら惜しくない。
ズシッとした肉の包みを渡され、大切そうにバッグに入れる。
財布は極寒の真冬だったが、体と心はポカポカと暖かだった。
自宅で、二つに切って、慎重に料理する。
十分に暖めたフライパンに牛脂を入れ、常温にしておいた肉を投入。そのまま30秒したら、ひっくり返して蓋をして20秒。
レア・ステーキの完成だ。ソースは、良い肉なので、煮汁に味付けして使うことにする。
「ワインでフランベすれば良かったかな・・・まあ、いいや」
皿に盛って、用意しておいた人参のグラッセとブロッコリーとジャガイモを添える。
完璧だ。
インターネットで事前の調べをしておいた賜物だ。
「兄さん、食事にしよう。今日はきっと兄さんも気に入るよ」
大きなビーズクッションで寝転がっていたエドワードを、テーブルに呼んだ。
いきなりステーキを出されて戸惑った様子を見せたが、いただきますと言ってフォークとナイフを手にしてくれた。
アルフォンスも、自分の肉にナイフを立て切り分けて、口に運んだ。
かなり美味い。
口の中で肉が溶けていくような出来栄えだ。
これなら!と、対面を見たら、肉を切ったところで兄の両手が止まっていた。
「・・・どうしたの?」
恐る恐る聞いてみる。
「アル、これもう少し焼いてくれよ」
「え・・・」
「オレ、中まで火が通ってるほうが好き」
世の中には、レアステーキの赤さを苦手とする人もいる。
それが、吸血鬼かどうかは、ともかくとして。
終わり