今日の兄さん(2012年)

□12月3日
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 ぼんやりした頭をどうにかしようと、ハボックに濃いめのコーヒーを頼んだ。
「なんか、眠そうっすね」
 目の前に置かれた熱いコーヒーは、カフェインの効果よりむしろ体を暖めて、余計に睡魔を活性化させてしまった。
 失敗だ。
 エドワードは、かすみ始めた目頭をかるく揉んだ。
「・・・ねもい」
「昨日、夜更かししたんすか?珍しく残業無かったから、つい遅くまで遊んでたとか?」
「・・・んなんじゃねーよ」
 エドワードは中佐であってすこぶる上司であるが、昔馴染みの気安さで多少の敬語混じりで話しかけてくるハボックを有難く思っていた。自分の性格では、一から十まで堅苦しい軍式敬語で話されては、イラついてくる。
「兄さん、ごめんね。僕のせいだね」
「おまっ!アル!」
 背後から気配を感じさせずに近寄っていた弟に、思わず声を上げた。
「でも、兄さんも悪いんだよ。あんな可愛い声で強請られちゃ、僕だって止められないもん」
 詫びれずけろりと言われてしまえば、ハボックも何と良いのか言葉に詰まる。
 兄弟で、とか、男同士で、とか、禁忌と言われたことを軽く飛び越えて、この兄弟は軍にいる。
「やだなあ、兄さん、恥ずかしがることないよ。軍なんて、僕らレベルがゴロゴロしてるんだから」
 それは、男女間とか世を忍ぶ同性間とかのことだろうか。
 たしかに、軍なんて下半身には無節操な人間が多数存在している。
 だが、この兄弟ほどオープンなのはいない。さすがに。
「あ、あのな、アルフォンス」
「それにね、僕らのことは上層部も公認なんだから。嬉しいよね、みんなが祝福してくれている」
 ハボックの静止なんて、ハナから無視だ。
「愛してるよ、兄さん。でも、今日は一緒にお風呂に入ったら、なるべく早く寝ようね。もちろん、手加減するから」
 真っ赤にになって涙目のエドワードの肩を抱いて、その滑らかな頬にキスを落とした。
 もはや、ハボックなんて眼中に無い。
 しかし、エドワードの睡魔は去ったようだ。
「・・・じゃ、その書類お願いしますよ」
 ならば早々にこの場を立ち去ろう。精神面に悪い。
 エドワードが何か言いたそうにハボックを見ていたが、気の毒に思うもそ知らぬふりをして背を向けた。
 あまり長いしても、怖いエルリック少佐殿の嫉妬を買うだけだし。
 自分の席に戻って、仕事を再開する。
「・・・苦労してんな、大将」
 視界の隅では、まだイチャラブモードでいる兄弟カップルは、クリスマスを間近に控えて独り身の軍人たちの繊細な心に深い傷を負わせていた。



終わり。

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