今日の兄さん(2012年)

□12月2日
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「十年愛」





 リゼンブールは高地のため、冬の訪れが中央よりやや早い。
 旅を終えた二人が、故郷で迎える何度目かの冬だ。
 自宅の暖炉用に薪を割ったり、日持ちのする肉や野菜の保存などで、この時期から結構忙しかった。
 羊肉は細かくきって、脂と煮込み、容器に脂ごと入れて固める。こうすると、脂が空気を遮断するので、肉が腐らないのだ。脂ごと野菜と煮込んで、スープにする。
野菜も、根菜類とピクルスなど、そこそこの量が収納庫に収まっている。
「薪倉庫は、もういっぱいになったよ」
 外から戻ってきた弟は、薪割りなど造作も無いように言いながら、エドワードに微笑んで見せた。
 体を取り戻したアルフォンスは、あっという間にエドワードの身長を抜き、しかも成長期とばかりにいまだにその差を広げている。
 エドワードとしては、兄として悔しくもあったがまた嬉しくもあり、それに気づくたびに苦笑するしかなかった。
「俺のほうも、これで一段落ついたな。明日、町に出てハムとか買って来ようぜ」
「チーズもね。せっかく小麦粉とかトマトソースを瓶詰めにしたのに、チーズがなかったら楽しみが減るよ」
 そう言いながら、逞しい腕をエドワードの腰に回す。
「あとは、ワインでも買っておくか?」
「そうだね。たまには酔って乱れた兄さんも見たいしね」
「誰がそんな醜態晒すかよ!」
「醜態じゃなくて、媚態って言ってよ」
 無防備なエドワードの額に、キスをする。
「アル…」
「今日は一緒にお風呂入ろうね。薪割り頑張ったご褒美が欲しいよ」
 腰からシャツの中に入ってきた手に、エドワードは身震いした。
「あっ…」
「冷たい?それとも感じちゃった?」
 背中から胸に辿りつき、尖ってしまったそれを指先で緩やかにこねられる。
「やっ…摘まむなよ」
「我慢できなくなるから?」
アルフォンスには体の変化は隠せないけれど、せめてもの反抗と睨んでやった。
「ベッドも冬仕様にしたし。寝室もね」


 冬の間楽しもう。


 耳元で囁かれ、崩れそうな膝はなんて正直なんだろう。
 そして、恨めしく思いながらも弟の胸に顔を埋めたエドワードは、アルフォンスの体温と「幸せ」を生身の両腕でしっかり抱きしめていた。



終わり

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