今日の兄さん(2012年)

□12月1日
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「もう12月か…早いなあ…」
 アルフォンスを見送り、細々とした家事を終えたエドワードは、カレンダーをふと見て誰に言うともなしに呟いた。
 一息入れよとして淹れた熱いコーヒーが美味いと感じるのも頷ける。ちょっと前までは、アイスコーヒーのほうが何倍も美味いと感じていたのに。



12月。
 軍医のエドワードも、軍人、中佐であるアルフォンスも忙しい時期だ。おそらく、アルフォンスなど、おそらく休み無しで新年を迎えるであろうことも覚悟しているはずだ。
「さて、と・・・」
 今日の予定も、この後はなかなかハードに詰まっている。
 つい先日入院した、自分が手術した軍人の経過を直接聞きに病院まで行く。ついでに、見たかった学会資料を借りて、その後で銀行は郵便局に行き、連絡があった隣の町にある本屋に本を取りにいく。夕方には戻ってきて、食料の買出しをしてから、夕食はアルフォンスのリクエストのビーフシチューを作る予定だ。
「さくさく片付けて、なんかケーキでも用意するかな〜」
 疲れて帰ってくるアルフォンスは、きっと喜ぶだろう。
 昔みたいに、いつもくっついてはいられないけど、これはこれで満足している。
「よし!」
 先月アルフォンスからプレゼントされたコートを着込んで、家から飛び出した。
「さっむ〜!」
 間違いなく北風が、室内で温まっていたエドワードを襲う。
 金糸の髪が、光りながら靡いた。
 これからもっと寒くなるのかと思うと、うんざりするけど、それなりにいいこともあるから。
 兄さん、と、アルフォンスの声が聞こえたような気がして頬を赤らめた。
 風に玩ばれている髪は、風が止めばエドワードの黒いコートの背に流れるように収まる。
 コートの温もりが、アルフォンスに抱かれているような気分になるなんて。
 気恥ずかしくなって、走り出す。
 これからの仕事に、勢いをつけるかのように。



終わり。
 

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