カメラマン弟×美人モデル兄
□6 砂の上にある現実
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「たかがモデルのくせに」
耳障りな言葉が聞こえ、エドワードは少しだけ視線を向けた。
言った主はカメラマンのアシスタント、まだほんの雑用と聞いている。
その、たかがモデルにあんたの雇い主の企業は何千万も出すんだぜ?
言えば余計に、火に油を注ぐことになるから、こういうのは無視に限るけれど。
「どうせ整形でもしてんだろ」
はいはい、どーも。
内心の苛立ちは隠し、口元を一瞬だけ弧にして、カメラマンに話しかける。
相手にされないのが一番腹立つだろうと、予想してやったことだ。たとえば、もしこのアシスタントがカメラマンとして世間に認められても、エドワードはその前に立つことは永遠にない。一人前になってエドワードを撮れる腕になったころには、エドワードは引退しているだろうから。
「お疲れ様。エドワード、今日はノッてたな」
馴染みになったカメラマンは、いい絵が撮れたと機嫌がいい。
「カメラマンの腕がいいんですよ」
そう微笑んでやれば、たいがいのカメラマンは腰が砕けたように嬉しそうにする。
スペシャル級のモデルのお墨付きをもらった気がするのだろう。
金払いの良い企業についているカメラマンには、たまにはリップサービスもしてやらなくちゃな。
モデルとしての旬は短い。
それまでに、できるだけの収入を得なければ。
「ありがとうございました。完成、楽しみにしてますよ」
流れるような足取りで、周囲の溜め息をBGMに、金の髪を揺らめかせながらエドワードはスタジオから退出した。
☆
「でさー!あいつ、マジむかついた!そんなに腕のいい整形外科医がいるなら、自分やってもらえばいいじゃんな!」
アルフォンスの作った揚げたてポテトをつまみに、ワインを傾けていたエドワードは、少々酔いが回ってきたようで、今日あったことの愚痴が漏れる。
「はいはい。その人もしかしたら、兄さんのこと本当は好きなのかもよ?」
「えー、ヤダー」
赤いワインが一滴、エドワードの唇から零れた
「そう、そんな顔、色っぽいよ」
「・・・アルに言われると嬉しい」
ワインのせいもあるのか、熱く溶けた目でアルフォンスを見た。
この表情一つに、大企業は札束を積む。エドワードで宣伝すれば、三割は売り上げが増えるとも言われている。
そんな魅惑の微笑みを、アルフォンスにだけは惜しげもなく与えている。
「アル、キスしていい?」
アルフォンスが目をつぶれば、エドワードは車椅子の前に跪いて弟の唇に口付ける。
「んふっ・・・んっ・・・」
唇を薄く開いて、アルフォンスの舌を導く。口内の隅々を、アルフォンスに明け渡す。
「あ、アル・・・」
「そんな顔しても、僕はベッドまで運んで上げられないんだからね」
途端に、エドワードに悲しいような罪悪感に苛まれたような表情が浮かび、何かを覚悟するかのように目を閉じた。
ゆらゆらと、睫毛を震えさせて目を開き、アルフォンスに請うような色を湛える。
「オレが、自分で行くから・・・全部自分でするから。おまえのことも・・・オレがちゃんと・・・」
エドワードから唇を重ねる。
アルフォンスは、目を閉じることもしないで、それを受け止めていた。
「アル、オレのアル・・・」
「兄さん・・・」
皮一枚毛一筋で繋がるような、淡い希望を見ているような。
本心は絡むこともなく、するすると滑る絹糸のような存在。
エドワードのシャツが、パサリと乾いた音をたてて、床に落ちた。
終わり。