ミニスカートの向こう側
□ハートに火をつけて
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最近は、撮影についてきてほしいというアルフォンスの頼みを、どうせ時間なんてたっぷりあるしと断れないオレだったりする。
行けば、他のモデルの女の子たちに白い目で見られるのはわかっているのに、アルフォンスにくっついていってしまうのも惚れた弱みだと思う。
「じゃあ、待っててね。・・・浮気しないでよ」
「わかってる」
浮気どころか、女の子たちはオレの半径3メートル以内には入ってきませんから。ええ、まったく大丈夫です。あれ、なんか目頭が熱く・・・
瞬きしながら、いつもよりも幾分かハデハデしいメイクのアルフォンスを見送る。
撮影風景を、やることもないし、しばらくボーっと見ていたが、ふと人の気配を感じた。
横を見ると、珍しくオレのすぐそばに人、というか男がいる。
「こんにちは」
やつもオレの視線に気づいて、愛想良く挨拶してくれた。
にっこり微笑む顔は、人好きのする穏やかなもので、ついつい年中冷たい視線に晒されているオレとしては、なんだかホッとしてしまった。
「あなたも、モデルさん?」
「あ、いえ、オレは付き添いで・・・」
「そうなんですか」
まあ、なんだ、こいつもオレに匹敵するくらい地味目な服装なとこから、きっと他のモデルとかの付き添いかスタッフかなんかなんだろうな。
なんの変哲もない無地のクリーム色のシャツに黒いストレートパンツは、むしろオレよりも地味かもしれない。加えてこの、温和な表情。
女の子のマネージャーとかかな、とか勝手に想像を広げたりした。
「ハイデリヒさん、スタンバイしてください」
「はい。じゃあ、また」
「あ、はい、え?」
うっかり流されつつ返事をして、後から驚く。
え、あいつ、モデルなのか?
え、あんな地味なのに?
え、今日の雑誌ってそんなコンセプトだったっけ?
「なに見てるの?」
いつもよりもトーンダウンしたアルフォンスの声に、ハッとする。
「彼みたいなのが好みなの?」
「え、いや、ちょっと話してたから・・・」
やましいことなど何もないのに、しどろもどろになるオレは、絶対浮気なんて出来ない。したくもないけど。
「あんなチャラ男がいいの?」
え、チャラ男?
そこで思い出した。今日の雑誌は、女の子向けのAggってファッション雑誌と、そこから派生した男性用のMen’s Aggって雑誌だったと。
しかし、ハイデリヒと呼ばれたあいつの服装は、どう見ても大学生とか事務員さんとか地味系真面目系のそれだ。
「あんな軽い男、絶対許さないからね。エドに相応しくない」
ゴージャスに盛られたネイルが、某両手刃物の優しい魔物を思い出させる。オレの喉なんか、容易く掻っ切れられそうだ。
「オレは、おまえが好きだってば。浮気なんてしないって」
「本当?」
「本当だから。嘘じゃない」
アルフォンスの目をみてそう言えば、たちまち機嫌が直る。
そんなとこも可愛いと思う。ガタイとかはともかくとして。
「・・・今晩は寝かさないよ」
女装モデルに相応しくない雄の目になって、一瞬だけアルフォンスが微笑んだ。
そんな男らしいところも、愛してる。
終わり。