今日の兄さん(2012年)

□12月8日
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 で、当日。
 なんだろう、この雰囲気は。せっかく料理が美味しくて評判の店なのに。
「エルリックさん、サラダ取りますね」
「このワイン美味しいですよ。飲んでみませんか?」
「今度、お休みはいつです?」
「次の学会ではお会いできるといいなあ。参加しますよね?」
「いやもう、こんな美しい方だったとは!俺、今日参加して良かった!」
 看護師ならいざしらず、なぜか初対面の医師たちもエドワードにこぞって声をかけてくる。
 おい女子はアッチだぞと思うが、その女子である看護師たちもエドワードのほうしか向いてない。
 なんだろう。有名人というよりも、珍獣になった気分だ。
「おい、サウザ」
「なんだ、エドワード」
 あからさまに言うわけにもいかずに目で訴えるが、親友であるはずのサウザは助けてくれないばかりか、彼まで目で謝罪してくる。
「あら、エドワード、モテモテね」
 サウザとサラは、恋人同士なのは周知の事実なので他の女性3人と男性2人はエドワードから視線を外さない。
 いや、視線を外すときは、他の奴と睨み合っている。
 なんでこんなことになっちゃったんだろう。
 もう帰りたい。
「エドワードは、これからもずっと軍医で?」
「開業はしないんですか?」
 おい、いつから名前呼びになったんだ?そして、君でもさんでもつけてくれ。友達でもなんでもないのだから。
 もうやだ、楽しくもなんともない。
 深く溜め息をついたとき、店の扉が開いて、ざわめきが起きた。
「ご歓談中、失礼します。エルリック先生に少々」
 耳に心地よい声を響かせたのは、エドワードの最愛の弟だった。
「どうした?」
「緊急の召集なので、申し訳ありませんが、僕と一緒に」
「わかった」
 ほっとしたことを隠してコートを手にし、あっけにとられている他のメンバーに謝罪する。
「ってことなんで、悪いけど」
「あ、いや・・・」
「こっちこそ、忙しいのにムリ言って悪かったな、エドワード」
「頑張ってきてね」
 口ごもった彼らを遮るように、サウザとサラが労ってくれる。
 参加費も受け取ろうとしないサウザに無理矢理金を握らせ、耳元で囁く。
(悪い。抜けられるんで、ちょっとホッとしたんだ。だから、これくらい受け取ってくれ)
 そんな他愛もないことでも、サウザに冷たい視線を向ける女性たちと友人医師たち。
 サウザだって、開始早々、失敗したなと後悔していたのだ。
「じゃあな。またゆっくり飲もう」
「ああ、またな」
 アルフォンスも一礼してから、エドワードに続いて店を出た。
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