□大好き
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疲れ果てて家に着くと、高校生のおれの弟はソファでうたた寝していた。
この寒いのに、こいつは薄着で、しかもテレビを付けっぱなし。いい加減おれの苦労を知ってもいいじゃないか、弟よ。
テレビを消して、鞄を放り投げる。



「エース…」

風呂に入ろうと浴室を開けると、リビングの方でルフィの声がする。起きたのか、と呆れながらリビングへ行くと、まだ弟は寝ていた。
何だ寝言か、と動くことにさえ億劫になっている体を叱咤して、おれの夢なんかを見て幸せそうにしている弟に少しだけ嫉妬した。何であいつは寝てるんだとか、おれは疲れて眠いんだとか、いろいろ考えてイライラしてくる。
ルフィの寝顔をじっと眺めていると無性に意地悪してみたくなって、半開きな口から涎を垂らしたアホ面を両手を使って横に引っ張った。


「…いででででッ!へっ、へーしゅっ!?」

ぱちり、と大きな目を開いて、横に伸びた顔のままおれの名前を呼ぶ。

「帰っひぇきひゃんひゃなっ」
「…ばーか。何言ってんのかわかんねぇよ」

引っ張っていた手を離すと、赤く染まった頬が痛そうで、罪悪感が心に染みた。しかしルフィはそんなことどうでもいいようで、ソファから身を乗り出して学校で起きた出来事を話し出す。
ルフィの話を聞くのは嫌いではないが、何せおれは疲れていた。眠気に襲われるのは当然で、でも倒れるわけにはいかない、とその場に踏みとどまる。


「エース!何で立ったまま寝るんだよっ」

おれは意外に器用なもので、半分寝ててもルフィの声は聞こえた。慌てたルフィがおれの前に来て、さっきおれがしたように頬を横に引っ張られる。予想以上に痛くて、ぱちりと目が覚めた。ルフィが安堵の息を吐いて力を抜くと、おれの気も緩んで再び眠気が寄ってくる。

「エースぅ」

構って、と言うように甘えた声を出されるとおれもどうにかしなくてはと思うのだけれど、流石に疲れた体は言う事を聞かない。

「エースっ、起きろぉー」

さっき寝てたのはどこのどいつだ、と言ってやりたかったが喋るのも無理に近くて、ルフィが頬を叩いてきたと同時におれはルフィの方へと倒れた。

「うわっ、エー」

ス、と言う前にルフィはおれを支えきれずに倒れる。相変わらず、力はまだ弱いらしい。

「も、むり…」

力を振り絞って発した言葉はそれで、ルフィはおれの下でもぞもぞしながら「このまま寝るのかよ」とか「せめて風呂には入れ!」とか悪態を吐いていたが、そんなのは無視だ。




「好きだ」

ルフィはこう言えば大抵黙る。照れているのか体もビクリと硬直した。正直ずっとこのまま枕になってはくれないだろうか。
突然そんなことを言われるとは思っていなかっただろうルフィは暫く固まった後、おれを勢いよく横に転がして馬乗りになってくる。意味不明な行動に少しだけ薄目を開けると、ルフィは顔を真っ赤にさせて言った。


「おれの方が、大好きなんだからなっ!」


真っ赤になって照れているくせに強がって、兄貴であるおれより好きの気持ちは大きいんだぞと怒ってくる。そんな弟が可愛いのも事実で、暫くフリーズした頭は眠気を吹っ飛ばしていた。一体何に張り合っているんだか。
馬乗りになっている弟を、笑いながら押し倒して反対に馬乗りになってやった。

「好きだ、ルフィ」
「おれは大好きなんだっ」

そんな屁理屈…、と呆れると、ルフィはにししと笑った。

「…なんで笑うんだよ」
「やっとおれを見てくれたから!」

にぃ、と笑うルフィに笑い返して、弟の頭を撫でてやる。

「やっぱ、おれはお前に勝てねぇな」
「だろ?」

いつの間にそんな話になったんだろうか。どっちが好きの度合いが強いかとか、そんなのはもうどっちでも良くて、おれは眠気と闘いながらも立ち上がる。

「エース?」
「ルフィ、もっかい言って」
「何を?」
「好き、って」

















だいすき

(お前がそう言う瞬間が、)
(おれは大好きなんだ)


2009.12.28.








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