脱色N

□逆転フィーバー!!
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今晩、グリムジョーは夢を見た。
鏡の向こうにいるもう一人の自分がこちらに手を振ってくる、というものだ。

そして、これはこれから起こることの予兆であり、グリムジョーが目を覚ました時、悲劇が始まるのであった…




「……ん…」

寝心地の悪さに身を捩る。意識が中途半端に覚醒し始め、ゆっくりと目を開いた。

「…なんだァ…?」

窮屈さにふと顔を横に向けると

「………」
「いっ?!」
「………」
「なんだよ…ディ・ロイの野郎か。…ったく、また寝ぼけて俺のベッドに入りやがったのか…」

彼の癖でもあり、グリムジョーは然して怒りもせず肩を揺さぶった。
うーんと唸るディ・ロイにため息をつくと布団を剥がして怒鳴りこむ。


「ディ・ロイ!いい加減にし…ろ……」


うぇええええ???!!!

ドッターン!

グリムジョーは大声を上げてベッドから転がり落ちた。


「え?は?!な、」
「ん〜…あ、グリムジョーおはよー」
「テメェ、誰、だ?!」
「へ?なに言ってるの?ディ・ロイだってば」
「じゃ、じゃあなんでテメェ…」


「女の身体してんだ?!」


そう。今のディ・ロイはグリムジョーの知るディ・ロイではなかったのだ。元々小さかった体は更に一回り小柄になり、胸には小さな膨らみが、表情にも柔らかみがある。
ワナワナと震えるグリムジョーを他所に今度は相手が目を見開いた。

「…あれ?グリムジョー…だよ、ね?」
「あ、当たり前ェだろ!!」
「でも、どうして…」

「男の身体してるの?!」


「……はい?!」


唖然と二人は見つめ合う。全く状況を読めないグリムジョーは今にも頭がパンクしそうになっていた。

すると突然部屋の扉が開いた。


「何かありましたか…?!」


「…ギャー!!!!!シャウロン擬きィイ!!???」
「なっ…グリム…ジョー?」
「シャウローン!怖いよー!!」

女ディ・ロイはシャウロンそっくりな女破面に飛び付いた。

髪型と服装、紳士的な柔らかい物腰だけはどう見てもグリムジョーの信頼する従属官・シャウロンではあったが、やはり身体や表情は違う。

ディ・ロイを背後へ隠すと静かにグリムジョーに近づく。数歩分間を空けて立ち止まるとゆっくり口を開いた。

「貴方の御名前は?」
「ばっ、グリムジョーだよ!グリムジョー・ジャガージャック!!テメェらの主だ!」
「……」
「嘘だー!グリムジョーはそんな厳つくないもん!」
「んだとコラァ!!俺のディ・ロイこそんな女々しい身体じゃねーわ!」
「自分がディ・ロイだ!」
「…黙っていなさい」

小さく制され大人しく口を閉じる。シャウロンは顎に手を当て考え込むと言った。


「今、貴方はディ・ロイに対し、女々しい身体ではないと仰りましたね?」
「そうだよ!つか、シャウロンも男だ!イールフォルトもエドラドもナキームも!皆!」
「…成る程。分かりました。逆に言わせて頂きますと…我が主であるグリムジョーも、女性なのです」

「……は???!!!」


ピシャーンとグリムジョーの中に稲妻が走った。

「お、俺が…女?!」
「ええ」
「嘘だ嘘だ!こんなん夢だ!覚めろ俺!!」
「落ち着いて下さい。私もよく分かりませんが…とりあえず今日は十刃の会議があります。そこで相談しましょう」
「…ちょ、ちょっと待て…」

嫌な映像が頭をよぎる。

「と、とりあえずだ。藍染…は」
「女性です」
「ウルキオラ…は」
「女性です」
「…ゾマリも?」
「女性です」

「ぁあああぁぁぁあああ」

どったんばったんと転げ回る主に似た男にディ・ロイは思わず吹き出す。

「おもしれー!」
「面白くねーよ!!やっべ怖い、十刃怖い、藍染怖い、ゾマリ怖い」
「ご安心を…私も一緒に御同行致します」
「そ、そうか…!そりゃ助かるぜ…」

「時間も迫ってきています。洗面を済ましてきてください」
「おう!」


グリムジョーはバタバタと部屋から駆け出した。

「男のグリムジョー、イケメンだね!」
「我が王ですから。当然です」



「…宮の作りは一緒なんだな」

洗面所に着いても、普段の自分達の生活模様と全く変わっていないことに安心した。
何時ものように歯ブラシを加え、何時もように顔を洗う。整髪料は相変わらずハードのものだったことに笑った。


「いやしかし…ディ・ロイはなかなか可愛かったな。あんま胸ねーけど」

差詰めやんちゃ少女といったところか。だが甘えん坊な瞳は変わっていない。

「シャウロンは…綺麗な…母親?って感じだな」

似ているとはいえ、二人とも完全な女。女装している訳ではない。自分の従属官達が美しかったことは、グリムジョーも一匹のオスとして喜ばしいことだった。


「イールフォルトは間違いなく美人だな。エドラドは頼れる姉御ってか?…ナキームは…ちょっとやめとこう」

「グリムジョー、そろそろですよ」
「おー!今行く!!」


グリムジョーは乱暴に扉を閉めると走り出した。




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