脱色N
□ねこのきもち
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「うむ、なかなか旨かったのう!」
今日は穴場の定食屋に行ってきた。腹が膨れると眠気に襲われる。
ちょっといい気持ちでふらついていると
「…む、雨か?」
ぱたぱたと小さな雨粒が落ちてきた。このくらいの小雨ならなんともないと歩いていたのだが次第に雨脚は強くなり。
服に広がる染みが大きくなっていったものだから仕方なく猫の姿になることにした。
猫だから濡れるのは好まないが服がびしょ濡れになるよか幾分マシじゃろう。
(……なんだ?)
霊圧を感じる。完全に消し去っているわけではないが…抑えてはおる。
誰じゃ…?
「ーーーっ?!」
数m先に現れたのは、破面…
何故じゃ、何をしにきた?
先手必勝とは言うものの、一筋縄ではいかん奴等を相手に一戦交えるのは好ましくないのう…
(ともかく、十刃ではないことを祈る)
ゆっくりと近付き、電柱の裏に隠れる。
(…あやつ…!!)
儂の眼は、しっかりとその6の数字を捉えてしまった。
(まずい、セスタ!!)
喜助に知らせねばならん!
一体、何をしにきた?
…と、いうか。
何故ビニール傘をさしておる。
(破面に傘とは…滑稽な姿じゃな)
とりあえず様子を見ることにしよう。
「……」
破面は辺りを見渡して人がいないのを確認している。する必要などないじゃろ。
…それにしても。
派手ななりをしておる。なんだあの頭は…
空みたいな色じゃな。
それに反し…立ち姿がいやに不良くさい。
しかもかなりの霊圧の持ち主であることは抑えていても分かる。まぁ、十刃だから当然と言えば当然だが…
血の気の多そうな奴じゃな…。
(…お)
破面はしゃがみこんだ。儂は気付かれぬようゆっくりと近付く。
奴はさしていた傘を…なんじゃ?捨てられた箱の上に置いた。
「……」
「にゃー」
「……!!」
捨て猫?
破面は慣れた手付きで猫の頭や喉元を撫でる。一体どういうことじゃ…!
「悪ぃな」
「にゃあ」
「本当は…連れて帰ってやりてぇけど。藍染が駄目って言うし…くそ」
「にー」
ええええ?!
なんじゃ、状況が読めん!というか受け付けない!
連れて帰る?藍染が駄目?
まるで…人の子の様な会話じゃないか!!
これが破面?これが十刃?!
訳がわからん!!!
「お前ぇは何も悪くねー」
「にゃー」
「頑張って生きろよ。…あれだぞ、死んじまっても、俺が迎えにきてやるから。な」
「ふにー」
(………)
…破面ってもっとこう…残虐ではなかったか?
普通なら『はっ!汚ぇ猫だな!邪魔くせーんだよ、消えろ!』だとか言って虚閃ばーんみたいな。
あんな優しい声が出せるのか?
「…っくちゅん」
「…?!」
しまったァアア
寒いからくしゃみをしてしまったー!!
バレた!こっちの方を見ておる!!
おおお…凄い顔じゃな、こりゃ893もびっくりじゃ!
「…なんだ、猫かよ…!」
儂の姿を確認した破面は小さくため息を溢す。ふむ、このまま殺されずには済みそうじゃ。
「…びしょ濡れじゃねーか」
それはお主もじゃぞ。
「……」
どうしたものか…儂は今差し出されている手に近づいた方が良いのか、悪いのか…
「とって食ったりなんかしねーよ、ほら」
チッチッと舌を鳴らされ指を動かされちゃ近寄ってしまうぞ儂だって!
「いい子だ」
…こやつ、本当に猫を扱いなれておるな。触る所全て気持ちが良い。
「……っ?」
などと寛いでいたのも束の間、破面は自らの上着を儂に擦り付けてきた。
「俺の服も濡れちまってるけど…拭かねーよかマシだろ」
(……!)
「猫は濡れんの、嫌だもんな」
そう笑い儂の身体を拭き終えると地面に降ろされた。すると破面は再び捨て猫に振り返る。
「来てやれるの、多分今日で最後だ」
「ふにゃぁ…」
「こっちに来てんのバレたらやべーんだ」
「にー」
「…もしかしたらもうバレてんのかな。怒られねー内に帰んなきゃ…」
この男が去ることを感じ取ったのであろう、捨て猫は奴の手に頭を何度も擦り付けては甘えた声で鳴いている。
「おいおい、これじゃお別れしにくいだろ」
「…にゃあ」
「元気でな」
破面は垂れ下がるびしょ濡れの前髪を掻き上げ猫と鼻の頭をこすり合わせると、ついにその重そうな腰をあげた。
「…なんだァ…?テメェまだ居たのか」
失礼な言い方じゃなー!
「さっさと帰れよ、風邪ひきてーのか」
儂だって帰る気満々じゃったわ。しょうがないじゃろう、こんな光景を目撃してしまったのだから。
「…はっ。利口そうな顔してら…。心配なんざ無用そうだぜ」
「……」
「じゃーな」
破面は不敵な笑みを溢すと軽くアスファルトを蹴った。気付いた時にはすでに真っ暗な雨雲の空の中に浮かんでいた。
「…破面…敵、か」
儂の呟きは雨音にかき消される。
(奴もまた、一つの器。心も魂も捩じ込むことが出来るのかのう)
もしもまた出会うことがあったなら
目の前でこの姿に変身してやるか
【 ねこのきもち 】
「あら夜一さんびしょ濡れじゃないすか」
「喜助、こやつに飯を食わせろ」
「にゃー」
「えっ」
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この二人にゃんこの組み合わせ美味しい気がする