学脱色

□後輩
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3.



決められた登校時間を悠に過ぎた昼前にグリムジョーはゆっくりと校門をくぐっていた。上履きに履き替えダラダラと廊下を歩いていると声をかけられる。


「おはよーさん、グリムジョー」


市丸ギン。何時も妖艶な笑みを貼り付け流暢な関西弁を用いる担任。うるさく叱ってくることも忌み嫌ってくる訳でもないが、何を考えているのか分からない雰囲気がグリムジョーは苦手だった。


「………」

目を細め睨み返すとギンは笑う。

「目ぇ、真っ赤やで」
「っせー」
「ゲームのやり過ぎとちゃう?視力落とすからよくないで」
「母親かテメェ!」
「先生や」
「うぜー」

舌打ちするとギンに背を向けた。

「あーそやグリムジョー」
「あ?!」
「卒業式は、ちゃんと最後まで出てな?」
「ーーーッ!!」
「ほなねー」


昨日の話をしているのだろうが卒業の危うい彼にとっては嫌味とも取れるその言い方にグリムジョーは遣るせない気持ちになってしまう。

ため息を吐くと今度こそ教室へと向かった。




席につくなりやってきたのはご立腹な様子の幼馴染み。すっかり忘れていたグリムジョーは眉に皺を作る。

「グリムジョー…」
「あー悪いって」
「貴様は本当に…!」
「今さっき市丸からお叱りの言葉を頂いたって…!だからもういいだろーが」
「あのな…俺が言いたいのは、問題を起こして卒業出来なくなったらどうするということだ」
「…どいつもこいつも卒業卒業!どうせ俺は救い様のねェ馬鹿だから大人しくしてたって卒業なんざ出来ねーよ」
「…グリムジョー…!」


(…やっべ)

ウルキオラは低く呟いた。
怒っている。

自分の失言に口を結ぶ。昔からグリムジョーの自虐をウルキオラは嫌っていた。


二人は黙り込み嫌な空気が流れる。しかしその沈黙は屋上から戻ってきたノイトラによって破られた。

「勘弁してやれよウルキオラぁ」

ポケットに手を突っ込みニヤニヤしながらウルキオラの高さにまで腰を曲げる一連の動作は通例のものだ。
その相手を小馬鹿にした動きを彼が嫌がっているのを承知でやっているのは、少なからずお互いをあまり良く思っていないからだろう。

ウルキオラは冷たい視線で相手を見やる。


「貴様に言われる筋合いなどない」
「おー怖ぇ!随分とご立腹だな」
「当たり前だ…二度と恥を晒すな」
「生徒会長さんも大変だなぁ。俺等みてーなクズの始末も、藍染校長の為に精を出さなきゃーってか?」
「…貴様…」
「おいノイトラ!」
「あんだよ。事実だろ」
「そーじゃねェよ…!いくらなんでも…」
「良い、グリムジョー」

ウルキオラはノイトラを掴むグリムジョーの腕にそっと触れた。

「低俗なこいつに出す拳などない」
「ああ?!」
「ばっ、ウルキオラ…!」
「退けグリムジョー!こいつの鼻っ柱へし折ってやる!!」
「やってみろ、クズ」
「おい!いい加減にしろテメェら!」


一触即発の雰囲気に身を案じたクラスの生徒はガタガタと離れていく。


「売られた喧嘩買って何が悪ぃんだ!」
「ちげーよ!しょーもねぇことでキレんなっつってんだ!」
「短気なてめぇに言われたくねーよ!」
「あんだと?!」
「おい貴様等…!」


「あーっ!!見つけたぜー!」


この場にそぐわぬ声色に三人はキッと廊下の方へと視線を移した瞬間だった。
一人の小柄な男がグリムジョーに飛びかかってきた。

「うぉっ?!」

「「?!」」

ガシャーンと机や椅子の音をたてて後方に倒れ込む二人。ウルキオラとノイトラはつい先程までいがみ合っていたことなど忘れてポカンと見つめ合ってしまう。


「いってーなァ!何すんだテメェ!?」
「グリムジョー!俺だよっ!」

凶悪犯罪者宜しく物凄い険相だったグリムジョーだったがその懐かしい顔に口角を上げた。

「ディロイ?!」
「久しぶりグリムジョー!」
「ウチにきたのかよ!」

わしゃわしゃと色素の薄い髪を撫で回し、ディロイを抱えて起き上がる。


「…あ、鉄仮面先輩もいんじゃん!」
「貴様は…グリムジョーの…」
「そうそう、昨日の入学式遅れて来てただろグリムジョー!」
「おう」
「相変わらずやることがかっけ〜!」


きゃいきゃいとマイペースに騒ぐ一年生に目を細めるとノイトラはウルキオラに呟く。

「誰だよこの餓鬼?」
「中学の後輩だ」
「あー」

先輩への熱愛ぶりに納得したノイトラは小さく頷いた。




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