学脱色

□拳
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2.




「いいか、一人でも多くブッ飛ばした方が奢りだぜ!」
「安心しろグリムジョー、てめぇに奢らしてやる!」
「…言ってろ馬ァ鹿!」


くんっと膝に力をいれ飛び上がるとグリムジョーの長い足が男の顔面を捉える。

「ぐあっ!」

その横ではノイトラの拳が相手の鳩尾にめり込んでいた。涎を垂らして膝から崩れ落ちる男の顔を容赦なく蹴りつける。白眼を剥いて倒れ込んでいる学生達に唾を吐くと小さく一言、弱ぇと呟いた。

「殺す!」
「ん、」

踞っていた一人が落ちていた鉄パイプを振り上げる。しかしグリムジョーは口端をあげるといとも簡単にそれを掌で受け止め、相手の胸ぐらを掴んでそのまま投げ飛ばしてしまった。


「まじで話になんねェな」
「雑魚すぎて何人やったか憶えてねー」
「俺も」


無惨な姿の他校生をジロッと見下ろすと一番軽傷だった男が自分の財布から全てのお札を抜き取ると地面に放った。

「か、勘弁してくれ…!」

情けない声でそう懇願すると二人は大笑いする。つかつかと近付き、髪を引っ張り上げた。


「…舐めてんのか」
「ひっ」
「雑魚の金で飯が食えるかよ。みっともねー真似すんじゃねーよクソが」


落とした鞄を乱暴に掴むと革靴の底を鳴らして去っていった。



****



「餃子二皿と中ライス追加で」

「まいど!」


グリムジョーはズルズルと麺を啜りきると目の前の男を怪訝そうに見た。

「その体によく収まんな、相変わらず」


ノイトラは見た目によらず大食漢だった。グリムジョーとてかなり食べる方だがそれは全て肉体によく表れている。


「太らねー体質なんだよ」
「胸板薄いもんな」
「殺すぞ!」
「事実だろ。俺の方が体格いいし」
「俺よりチビだけどな」
「標準以上だっつーの!テメェがでかすぎんだよモヤシ!!」
「黙れ雑魚!」
「んだとコラ!?」


周りからしたらその場から逃げたくなる様なこの言い合いが彼等なりのスキンシップ。無論、そう思っているのは本人達だけで学校の清い教師や生徒からは疎ましい存在として黙視されるだけだった。

そうやって端に追いやられ浮いているからこそその仲間同士で群がるのは必然と言えよう。

グリムジョーとノイトラは所謂友人関係とは違う情で結ばれているのだ。


「そんだけでけーとさ、吊革掴めねェだろ逆に」
「酷い時ぁ天井突っ張って支えてるぜ」
「すっげ、やっぱ届くんだ!」
「あと降りる時とか額ぶつけそうになる」
「額!!規模違いだな」
「注目度ハンパねぇから。まじ芸能人気分だから」
「そりゃテメェがそんなヒョロ長な見た目だからだろが!」

膝を叩いて笑うグリムジョーにびびりながら店員は餃子と白飯を置くとそそくさと去っていった。ノイトラはそれを後目に餃子を口に放り込む。


「ノイトラと電車乗ったことねーもんな」
「お互いここが地元だから乗る必要がねーだろ」
「割かし色んな店揃ってっからどっか行くにもあんまここから出ねーし」
「引っ越して来た時からこりゃ使えるって思ったぜ」
「なんでちょっと上目線なんだよ」


スープを飲みきり舌舐め擦りするグリムジョーにノイトラは言った。

「この後どーすんだ」
「いつものゲーセン行くか、ちょっと遠出してみるか」
「はぁ?遠出?」
「電車乗ってどっかに」
「てめー俺の電車乗る風景見てぇだけだろぶっ殺すぞ!」
「ぎゃはは!」
「言っとくけどな、グリムジョーが乗ってんのも相当間抜けだぜ」
「はっ?!」
「律義に金払ってちいせぇ切符を改札に通すとか…ぶっ!」
「Suicaでしたー残念だったな!」
「…お前がSuica?ひゃはは!ピッてやんのか、ピッて?!」
「文句あんのか!」
「ピンポーンってなって焦ってチャージするグリムジョーとか!!…腹痛ぇ!」
「黙って食えや!!」


****



二人は駅に向かっていた。どこか行く宛はなかったが、この春の陽気のおかげでお互いを茶化すという理由だけでも十分だった。


「はっ。ウルキオラからお叱りのメールだ」

見なくても内容など容易に想像出来るグリムジョーだったが素直に携帯を開く。

「なんて」
「…新学期早々問題起こすんじゃない、」
「ひゃはは」
「明日の朝ちゃんと東仙教頭に謝罪しろ…だってよ!誰がするかよ!」
「………」
「…あ?」

黙り込んだノイトラを不審に思い顔を上げる。よく見る光景、カツアゲ。


「物足りなかったとこだ、潰すか」
「俺Suicaチャージしてくるから好きにやってろよ」
「ぶふっ」
「笑うなコラ!」


歩いていくグリムジョーの背中を一瞥するとノイトラは集団に近付いた。



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