学脱色

□春
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1.



ひらり

グリムジョーの肩に一片の花弁が舞い落ちた。


「こんな所まで飛んできやがったのか」

隣でポテトチップスを食べていたノイトラがそれを掴む。

「……」

直ぐに興が冷めたのだろう、花弁は乱暴に宙に放たれたがグリムジョーの掌に収まった。
暫く眺めると呟く。

「入学式、始まんな」
「まだ始まってねーのかよ」
「五分前だよ」

ジャラリと鳴ったウォレットチェーンに驚いて顔を上げるとグリムジョーが立ち上がっていた。

「おい、出んのかよ!」
「入学式だけな。その後の始業式はバックレる」
「はぁ?!なんだよいきなり、頭沸いてんじゃねーの!」


振り向くと目を吊り上げる悪友。グリムジョーは桜を風に舞わせるとニヤリと意地悪げな笑みを浮かべた。

「ウルキオラの奴、喋るんだってよ!」
「…あー、生徒会長だからか」
「後で茶化してやろうと思ってな」
「粋がった一年坊主もあの能面にはびびっちまうだろーな!」
「ぎゃっはっは!能面!新しい!!」


菓子のゴミを蹴散らしながら二人は屋上の階段を降りていった。



***



二人が体育館に辿り着いた時には既に全員着席していて注目の的となってしまった。
無論、彼等がそんな視線にどうこうする筈もなく。申し訳なさそうに入るどころか寧ろ「なに見てんだコラ」と辺りに眼を飛ばす始末。

青髪短ラン、隻眼長身。在校生に知らぬ者はいない彼等の風貌に新入生の保護者達はざわつく。


喧騒に気付いた生徒会長は、自分のクラスはどこだろうかとフラフラしている二人に向かって、慌てて手を動かした。

「案外親切だな、ウルキオラって」
「…ばっか、あいつ今超キレてんぞ!」
「お前見分けつくのかよ!流石幼馴染み」

ケラケラ笑うノイトラを無視してグリムジョーは少し駆け足で席についた。


「……」

前方の席から翡翠色の目が訴えかけてくるのに苦笑いを返すことしか出来なかった。


「東仙いなくてよかったぜ」
「あいつどこだよ」
「辞めたんじゃね?」
「ぶっ」

思わず吹き出したグリムジョーだったが振り返ったウルキオラに睨まれ大人しく口許を閉じる。それと同時に幕が開いた。



『皆さん、ご起立下さい』


「げっ!東仙!!」
「ちゃんといるし!ひゃっはっは!」
「声でけーよノイトラ!」


幸い立ち上がる音で誤魔化されたものの、ここからが問題だった。二人はこの手の式典に疎い。

『礼、』

一同がお辞儀をする理由も義理も分からず偉そうに突っ立ち、更には指示が出る前に座り込む。最悪のマナー。


胡散臭い笑みを貼り付ける校長やどこぞの誰かすら知らぬ会長の話など聞きたくもないノイトラだったが、グリムジョーがそれに耐えている本当の理由を知っていた為に大人しく寝ることにした。


しかしグリムジョーもグリムジョーで苛々していたのには変わりない。

(話なげーんだよ藍染)

式をサボると言った時の幼馴染みのどこか寂しそうな表情に負けた自分を恨み始めるグリムジョーだった。


(出んならさっさと出ろよ…ウルキオラ)



***




「おいノイトラ、おい!」
「……あんだよ…うるせーな…」
「馬鹿、式終わったぞ」
「よし帰ろうか」

目的を果たした二人は新入生退場の拍手を耳に大きく伸びをする。


『えー…保護者の皆様はこの後各教室へ移動して下さい』

「ふぁーよく寝た」
「ケツ痛ぇ」
「パイプ椅子乙!」

『在校生諸君は始業式を行うのでこのまま待機を…』

「よし行くか」
「おー」

『…!』

ガタガタと椅子を鳴らして立ち上がると東仙の指示をフルシカトして歩き出した。


『グリムジョー・ジャガージャック!ノイトラ・ジルガ!戻れ!!』

キーンとマイクをハウリングさせながら怒鳴る教頭にわざとらしくリアクションを取ると二人は走る。


「グリムジョー戻ってこい…!」

ついに立ち上がった生徒会長。グリムジョーは振り向くとベーっと赤い舌を出して叫んだ。


「ウルキオラァ!なかなかいい挨拶だったが途中一ヵ所噛みそうになっただろ!?」
「…なっ?!」
「隠したつもりかもしれねェが…俺にはバレバレなんだよ!」
「い、いいから戻…」
「そーいやまた同じクラスだな!今年も宿題見せろよ、じゃーな!!」

『お前達…!!』


東仙の叫びも虚しく不良二人組は雄叫びをあげて体育館から去っていった。


「相変わらず困った子だ…」
「明日叱っときますわー藍染校長」
「ふふ…頼むよギン」





(どこ行くよ?)
(まずは飯だろ!)
(ラーメン食いてぇ)
(いいな、駅前にできた新しい店行くか!)
(そーと決まりゃ…)
((鞄取りに屋上へ戻るべし!))

俺達の馬鹿!




to be continue...

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