脱色N

□二人掛け
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この感じは何なのか。
胸の奥が苦しい。腹の底から何かが迫ってくる。血液が、熱い。

この感じは何なのか。
起伏の激しいあいつと一緒だったなら何か答えてくれたのかもしれない。

だけど今、隣に奴はいない。



「4番さーん」

上擦った、人を小馬鹿にする声。

「……」
「あっれぇ?怒らないの?いつもならその呼び方はやめろーって言うくせに」
「…黙れ」

相変わらずよく喋る。鬱陶しくてたまらない。


「元気ないねー。落ち込んでるの?」

振り返るとさぞや楽しそうに目を細め上目遣いでこちらを覗き込まれる。小憎たらしい口元が弧を描いた。


「無理もないかー。6番さん、やらかしちゃったからね」
「……」
「あ、また“元”を付け忘れちゃった」

「用がないなら失せろ」

睨み付けるとわざとらしく身を捩るこの男が何故奴の後釜に入ったのか理解出来ない。


(セスタを汚すな)


「用ならあるよ?今度君と僕で任務があるんだ」
「……」
「うわー嫌そうな顔」

クスクスと笑うと俺との間合いを詰める。

「不満?」
「ああ」
「お世辞とか言えないの?それともソレは元6番さんにしか使わないのかな!?」
「……」
「ははは。君にもあるんだ!」
「…何が言いたい」
「元6番さんが大好きなんだねー!可愛いとこあるじゃないか」
「黙れ。消されたいのか」
「でもさー彼も馬鹿だよね」


馬鹿?


「一時の私情に任せて…とっーても大切な部下死なせて…腕切られてセスタ落ち?」
「……」
「面白すぎー!こんな簡単に十刃入り出来るなんて思わなかったよ」
「あいつも貴様の様な下衆に己の番号を背負われるとは思っていなかっただろうな」

「…はぁ?」


あいつが馬鹿ならお前は何だ。


「あんな単細胞の数字を…僕が背負ってあげてるんだ…!」
「口の減らないルーキー、だな」


目の前の男の霊圧が上がった。歪。こいつの心がそのまま形になっている。ただ、不愉快。

俺は、俺が思っていた以上にあいつの真っ直ぐで太い霊圧が好きだったんだ。


「あんま調子に乗るなよ」
「誰に口を利いている」
「…女々しく引きずってるあんただ…」
「……」

「グリムジョーみたいな馬鹿にかまけてるあんただよ!!」

「ーーー」


俺のなかで
電流の様な痛みが駆け巡った。


「ぐっ?!」
「無駄口叩けぬ様、この喉を引き裂いてやろうか」
「は、放…せ!」
「二度とその姿で、その声で、グリムジョーと発するな。…虫酸が走る」



そうか。
俺は

あいつが罪を犯して
十刃落ちになったことに
“怒って”いるんだ。

あいつが居場所を失って
俺の隣にいないことに
“悲しんで”いたんだ。

なにより、
今あいつがたった独りでいることが
“心配”でならないのだ。


(この“感情”の存在自体が例え嘘だとしても、この気持ちが生まれたことに偽りはないから)



何処にいるんだ。帰ってこい。

お前の居場所は6だろう。
それ以外、ないだろう。



俺の隣に、戻ってこい。




【 二人掛け 】



この廊下を一人で歩くのが
淋しいと思うようになるなんて

誰が想像出来ただろう。



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気付いたんですけどウルキオラってグリムジョーには下衆とかクズとか言ったことないような…あれ?寧ろ優しいような…あれ?

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