脱色N

□loneliness
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※『応答は最高の報酬』のやや続き




立ち止まって溜め息を吐くと振り返った。


「そんなに俺を殺したいかよ」


数m後方に光る浅葱色の眼は変わらずこちらを貫く。

「殺気立ちすぎて背中痛ーんだけどな」

グリムジョーは焦れったい距離でスタークの前に立ち止まった。ただ黙って睨み付けているだけで。


「流石に今日は、相手したくないんだが」
「ンなつもりはねー」
「ねーのかよ。…じゃあ、何か用かい」
「……」

色違いの青い目が交差する。

「……」

「あんたが気に喰わねぇ」


グリムジョーは低い声で呟いた。だが何時もの、今にも喉に食いつかんとする荒々しい表情ではなかった。

何か引っ掛かるその顔にスタークは眉をひそめる。


「悪いことした記憶、ないんだけどな」
「あんた、」
「?」

「プリメーラのくせに、やる気ねーしすぐ面倒くさがる」

「あー…まぁ」

「おまけに…虚の殺意すらねぇ」


グリムジョーの目が光った。
ああ、今こいつ俺を殺そうとしてんのか
スタークは呑気に、そして他人事のようにそれを見つめ返す。


「だめ?」
「俺達は虚。破面。そして十刃。その中のトップがあんただ」
「ああ」
「舐めてんのか」
「…ジャックナイフみてーだなお前」
「話反らしてんじゃねーよ」

牙を剥くグリムジョー。

「殺意を向ける相手がいねーんだ。仕方ねーだろ」

「…ぬりぃんだよ!てめぇのそういう思考を言ってんだ!何故相手を求めねぇ?!喰らおうとしねぇ?!破面だろ!!」


いざ掴みかからんと身を乗り出した。怒りでカツカツと歯が震えぶつかる。


「…皆が皆喰らい合ったら、皆いなくなっちまうだろ」
「!」

「…独りぼっちは嫌なんだよ、俺は」


憂いの表情にグリムジョーは拳を更に握り込んだ。腹の底がムカムカする。

弱味を見せることを極端に嫌い、またそれは戦士として許し得ないことだと考えていたグリムジョーには決して理解出来なかった。そんな泣きそうな顔をするのも、腹が立つ。


「十刃のトップが…情けねぇ…!!」


絞り出した声が乾いた空気と混ざり合う。


「…じゃあ交換するかい」
「…?!」
「今ここで俺を殺しなよ。1番はやる」
「馬鹿にしてんのか!!」
「してねーよ」

目の前の男の本気な目に一瞬怯んだ。


「好きで1番背負ってるんじゃねーんだ」


(ーーー侮辱ーー、)

グリムジョーは金切り声をあげて飛び掛かった。スタークは驚いて相手の刀を掴む。

「…殺してやる」
「お、おい」
「殺してやる!!」

片手に集まる霊圧。殺意の籠った赤い閃光が放たれた。


「チッ」


破壊された壁。しかし前には誰もいない。数字の5つ差は大きかった。


「…深い意味はねーよ、俺は本当に嫌なんだ」

背後に立つスターク。その冷めた弱々しい声色がグリムジョーを逆撫でする。


「孤独なんて、司りたくなかった」


「…一番腹が立つのは…」
「……?」

「弱さを隠さねぇところだ!それも、自分が弱いと認めて分かっていて!!」


(分からない、分からない)

「何故弱音を吐ける?!怖いと言える?!」
「……」
「言わねぇだろ普通!意味わかんねぇんだよてめぇ!!」

男の胸ぐらを掴み上げ、罵倒の言葉を浴びせても、途切れ途切れに放つ息が弱々しく震えてしまう。


「俺は!俺は…!」


(あんたが羨ましい)


飲み込んだ言葉が代わりに瞳から零れ落ちた。力無く項垂れた浅葱色の頭。


「……」
「…俺だって、やだよ、独りは…!」
「…グリムジョー、」
「消えたあいつらに、戻ってきてほしい!でも、かっこ悪くてんなこと言えねぇ!」
「……」
「俺は、二重の意味で弱ぇ!」


「殺す力も、弱音を吐ける強さも…俺だって欲しい…!!」


彼もまた、孤独だった。


「グリムジョー」
「……」
「俺は怒鳴れるお前が羨ましいよ。常に上を目指すお前が羨ましいよ」
「…!」
「お前だって、強いから」

「独りぼっちが一緒にいれば、二人ぼっち」
「…?」
「三人いれば、三人ぼっち。…俺らは十人ぼっちの十刃だ」


「独りじゃねーよ、俺もお前も」


「お前の弱音だったら、俺が代わりに吐いてやる。だから…俺の代わりにお前が強くなれよ」




【 loneliness 】


生まれる時も 死ぬ時も
人は誰もが独りだから

そのちょっとの間くらい
群れていたって構わないだろう?


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淋しがり屋のこの二人が寄り添い慰め合ってたら美味しい\(^O^)/『応答は最高の報酬』のやや続きみたいになりました

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