記念小説

□アンダーワールド
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あれからどのくらい経ったのだろう―――



あの事件をきっかけに人狼族は主であったヴァンパイア族と敵対し、互いの種の存亡を賭けた戦いを繰り返していた。


人狼族最強の長の名を、一護という・・・。



一護は仲間と落ち合う為、人通りの多い通りにある時計塔の下にいた。

街並みも近代的な物へ移り変わった。
忙しなく行き交う人々を見ながら、科学の進むこの世界に闇の一族が死闘を続けているなどいったい誰が信じるだろうか。


実際一護たちの戦いも人間の科学力に倣い変化を遂げていた。

遥か昔は自分たちの力のみを武器に戦っていたが、今は相手の弱点を研究し確実に息の根を止められるよう造られた兵器を手にしている。

それにより、致命傷でも死ににくかった両族の数は現在激減しつつある。





どこから来たのか足元にダックスフンドの子犬がまとわりついて来た。


「何だお前、どっから来た?俺が恐くないのか?」


愛想よくしっぽをパタパタ振る子犬は靴に興味を示したようで、一護の靴ヒモの端をくわえると夢中で引っ張り遊び出した。


「こらこらヒモが解けちまうだろう?」

一護はしゃがんで子犬を抱き上げ優しくたしなめた。




「あー、居た!こら、コン!」


少女の声に子犬は反応すると、そのまま一護の手から飛び降りて一目散に叫んだ少女の元へ駆けだした。


「もう!ちょっと目を離したら居なくなってるんだもん、いけない子!お兄さん、コンを掴まえてくれてありがとうございます。本当に助かりました!」


日の燦々と降り注ぐ中、艶やかな黒髪に華奢で小柄な体躯の少女が太陽の光に負けないくらい明るい笑顔を一護に向けた。



「・・・お兄さん!?」


一護の頬を涙が伝って流れ落ちていた。


「どうしたの?何処か具合でも悪いの!?」


びっくりして目を丸くする少女に、一護は何でもないと頭を振った。


「すまない、ちょっと昔の事を思い出してしまっただけだ」


「・・・悲しい事?」


少女は少し首を傾げて考えると、ポケットから飴玉をひとつ取り出した。



「これあげる。この飴を舐めたらきっと幸せな想い出も思い出す事が出来るよ。私のとっておきの元気が出るアイテムなんだ。美味しいわよ、いちご味なの!」


少女は一護がその飴玉を素直に受け取ると、満足そうな顔をした。



「・・・あ!パパとママだ。もう行かなくちゃ。太陽みたいな髪のお兄さん、コンを掴まえてくれてありがとう、元気出してね!」


そう言って駆けだそうとした少女を一護は呼び止めた。


「飴をありがとう。あ・・あの、君の名前は・・・!?」



「私、ルーシア!皆には“ルキア”って呼ばれているけど」



少女は光のような笑顔を残して待っている両親の元へ手を振りながら駆けて行った。




ルキア・・・お前は願いを叶えたのだな。

昼の住人として憧れていた光の世界を手に入れたんだ。



ルキア、今度こそこの美しく明るい世界でどうか幸せに――――!






――――その僅かな願いが叶わなかった事を、次に少女と再会した時驚愕と共に思い知る事になり、一護が運命というものを呪い殺したくなるのは、もう少し先のお話――――




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