記念小説
□アンダーワールド
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「ルキア・・!お館様が言った事・・・」
「すまぬ・・・。腹の子の事でお前との関係がお父様に知れてしまったのだ・・。
私も腹に子を宿していた事に今日の今日まで気がつかなかったとは、何と抜けていた事よ・・」
「じゃあ、本当に俺たちの子が・・・!?」
ルキアと自分の子・・・!
こんな状況にも関わらず喜びが込み上げ、一瞬でその気持ちは霧散した。
間もなく日が昇る。
そうなればまだ見ぬ我が子共々最愛の人は消えて無くなってしまうのだ。
目の前にあるのは絶望しかない。
「ああああああああ・・・!!」
一護は咆哮を上げながら狂ったように縛めの鎖を解こうともがいた。
だが長時間の拷問を受けた傷だらけの弱り切った身体に加え、純銀製の鎖が人狼としての力をも封じている。
イモ虫の様に僅かばかり這うのがやっとだった。
それだけでも全身から血が噴き出す有り様だが、それでもルキアの元へ少しでも近付こうとする。
「一護・・!もうよい、もう動くな・・!」
「よくねえ・・!このままだとルキアが・・!子供が・・!」
歯を食い縛り前進しようとする一護に、ルキアは穏やかに微笑んだ。
「もうよいのだよ、一護・・・。腹の子は私が連れて行ってしまって申し訳ないが、私は最期に夢が叶うのだぞ」
「・・・夢?」
「私が焦れて止まぬ太陽をとうとうこの目で見る事が出来るのだ!」
ルキアの顔はこれから死を待つ者の顔ではなかった。
恐れではなく期待と希望に満ちていた。
「ルキア・・てめえこんな時までつくづく呑気な奴だな」
「何を言う。私の念願がついに成就するのだぞ?むしろ逆境を楽しみに替える逞しい女なのだ。どうだ、惚れ直しただろう?」
「何言ってやがる。今更惚れ直す訳ねえだろ?
・・・俺はずっとお前を愛していたんだから」
「・・・やっと、その言葉が聞けた」
「ルキア?」
「お前は言葉の足りないたわけ者だからな。お前の気持ちは分かっているが、その言葉を私はまだ聞いていなかったのだ」
空の色が黒から群青へ変わり始めた。
夜の世界が終りを告げようとしている。
空の変化に呼応して、ルキアの身体から白煙が立ち始める。
「ルキア!愛してる、愛してる、愛してる・・・!」
今の一護にはもう想いを告げ続ける事しか出来ない。
とうとう朝の光が地上に射し込んだ。
その光を浴びた処からルキアの身体に炎が点る。
「ルキアーーー!!」
どんなに一護が叫んだ処で太陽を止める事など叶わない。
太陽がほんの少し顔を出した瞬間、激しい炎がルキアを包んだ。
これが太陽・・・!
自分がずっと憧れていた存在。
何と力強く優しいのだろう。全てを包み、清めるような光。逞しい生命の息吹を感じる。
やはり、一護とよく似ていた・・・。
それを確かめられた事が嬉しかった。
一護が悲痛な顔で叫んでいるが、ルキアにはもうその声を聴く事も出来なかった。
泣かないでくれ、悲しまないでくれ、どうかお前だけは生き残ってくれ・・・。
そうしたら、何時か――――
太陽が昇りきる前にルキアは灰となって消えてしまった。
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