記念小説
□アンダーワールド
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お館様に呼ばれていたルキアが蒼白な顔で部屋に戻って来た。
「どうしたルキア!?」
「お父様が・・・私に結婚しろと・・・。もう相手も決めていると・・・!」
怒りと困惑でルキアは全身を震わせていた。
お館様の言葉は絶対。
それは娘といえども同じ事だ。
ルキアは長の娘。いつかこの日が来るだろうと覚悟はしていた。
でも、こんな突然・・!
一護はぐっと拳を握って内心の動揺を隠して軽口を叩いた。
「よかったじゃねえか、こんなじゃじゃ馬と結婚してくれる奴がいて。精々その性格がばれないように被るネコは大切にしとけよ?なに大丈夫、俺が傍でバレないように上手く助けるから・・・」
「お前がそんなこと言うな!嫁ぎ先にはお前を連れて行けないのだぞ!?」
「なん・・で・・・?俺はお前付きの人狼なんだぞ!?」
「お父様が、私には向こうの嫁ぎ先の抱える人狼を付けると・・・。一護は元々我が屋敷の人狼だからと・・・」
心臓が冷たく凍りつくかと思った。
ルキアをもう護っていく事が出来なくなる?
もう、ルキアの傍に居る事すら出来なくなるというのか!?
ルキアは泣きながら一護の胸に飛び込んだ。
「一護、あの丘へ連れて行ってくれ・・・!」
***
花咲く丘はいつも通り美しかった。
いつもと違うのは、ルキアの啜り泣く声だけ。
「嫌だ、結婚なんて嫌だ・・!お前と別れるなんて嫌だ・・!」
どうしようもない現実に、ただ泣きじゃくるルキアを胸に抱き締める事しか一護には出来なかった。
俺だってルキアと離れる事など考えられない。
自分の全ての忠誠を捧げてきた、これからも護り貫くと決めていた唯一人のひと―――
本当はそれだけじゃない。
想いを伝える事も叶わないけれど、大切な愛しい唯一人の女性―――
「一護、お前は私のものだよな!?」
「・・・ああ、俺はお前のものだ。今までも・・・これからもずっと・・・!」
ルキアの涙で光る瞳に強い決意の色が射し込んだ。
それは、破滅を予感させるような・・・・。
「そうだ、お前はずっと私のものだった。だから、今度は私をお前のものにしてくれ・・・!」
最大の禁忌。
どこかで警告音が鳴っている。
だけど聴こえないふりをした。
憶えているのはむせかえるほどの花の香りと、冷たい月の光だけ――――
たった一度。
お互いを所有しあった。
それだけがこれから生きて行く為の小さな糧。
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