記念小説

□トライアングル・コンプレックス
2ページ/3ページ




番外編「間違いだらけの7月15日」





「何にもしなくていいからな!」

「むう・・いやでも・・」

「何もしないでいい!!」

「・・・分かった」



残念そうにとうとうルキアは諦めた。



7月15日の俺たち兄弟の誕生会を開きたいルキアは、断る俺たちの意見をやっと高校生になって聴いてくれた。

ルキアには悪いが、この歳で“お誕生日会”は勘弁してくれ・・・。





当日、緋真さんがケーキを焼いて来てくれた。

こんなもので悪いのだけど・・・と言って渡されたケーキは、大きなチョコレートケーキだった。



「うわ、美味そう。ありがとう、緋真さん」

「お口にあえばいいのだけれど」

「絶対美味いですよ。でも大きいからうちだ
けで食べきれるかなあ」

「大丈夫よ。後で処理班がお邪魔すると思うから」



そう言って、緋真さんは帰って行った。






「おい、白。緋真さんからケーキもらったぜ」

「お、ラッキー。・・・ん?何だこれ?」



白は、ケーキの脇に入っていた封筒に気が付いた。


小さな封筒が二通。
その袋には・・・



「“お年玉”!?」



“お年玉”と、封筒の表面に大きく印刷された文字。
それは、間違いなくお年玉袋だった。



「・・・何だ、この激しく時期外れなものは・・・」

「今日は確か7月15日だったような・・・」



こんな事をするのは―――




「・・・白哉だな」



思った通り、しっかりと裏には白哉と達筆な文字で名が書かれていた。



「何の嫌がらせだ!?あの能面・・!」

「中身が怖い・・・って、うお!!」


中から出て来たのは諭吉が各一枚。




「大好きです、白哉様〜〜〜!ありがと〜〜う!!」

「能面なんて言って悪かったです!いい人!男前です!」



掌を返したような二人だったが、折畳んであった諭吉を広げると、ぽとりと中に挟んであった紙が落ちた。


「何か書いてあるぞ・・・。えっと・・・“ルキアはやらん!”・・・はあ!?」


「こっちには“ルキアに手を出な!”
・・・だって」



書は人の心を映すという。

小さな紙いっぱいに書かれた迫力の文字に、白哉の本気度が窺える。



「・・・前言撤回だ、あの野郎・・!」

「ああ・・!だが諭吉は返さん!!」




『『そしてルキアは絶対もらう!!!!』』




心に強く誓う二人だった。




「よっし、白哉への腹いせにルキア呼ぼうぜ一護」

「腹いせかよ。あ、でもそれなら大丈夫だ」





「おめでとう!で、私のケーキはどこにある!?」



チャイムも何もなく、ルキアが何時もの様に部屋に当然のように入って来た。



「ほら、“処理班様”がやって来たぜ?」

「あー、なるほど・・」



緋真さん命名“処理班”ルキアがキラキラした瞳でケーキをねだるので、皆でケーキを食べる事にした。


一番大きく切り分けてやったケーキを、ルキアは美味しそうにもぐもぐと平らげていった。

幸せそうなルキアを見るのは嬉しいのだけど・・・




「・・・なあ、あいつ何しに来たんだ・・・?」

「ケーキ食いに来たんだろうな、間違いなく」



何もしなくていいとは言ったものの、幾らなんでもこれは酷くないか?

ルキアをじっとりとした眼で見詰めると、それに気付いたルキアがムッとした顔をした。




「だって、お前らが何もしなくていいと言ったのではないか!」



「まあ、そうだけど・・・」


「私だって、いろいろ考えたのだぞ?やはり学生として使える物がいいかもと思い、チャッピーの文房具にしようか。はたまた音楽好きなお前らにはチャッピー型CDケースがいいかもとか。あるいは男も身だしなみは大切だからチャッピーのブラシと鏡のセットも捨てがたいとか。・・・結局決まらなくて買う事が出来なかったが」



「とりあえず終着点はチャッピーなんだな・・・」

「やっぱりお前は、なんにもするな」



「何だと!?・・・まあいい。今年の私は一味違うのだ!」



フッ、フッ、フッ、と不気味に笑いながらルキアはポケットから赤いリボンを取り出して自分の首に結んだ。




「今年のプレゼントは、私だー!」



「「はああーーー!!?」」



何言ってんだこいつは!?どういう意味だ!?

一瞬で脳内をイロイロな妄想が駆け巡ったが、二人は頭を振って諸々の妄想を否定した。


『いやいや、そういうことじゃないだろう!?』



そうは思うのだが、首のりぼんが主張するように色鮮やかに目に映る。

プレゼントはルキア・・・



「では・・そうだな、くじで決めようか」


ルキアは固まる俺たちなど気にもせず、紙切れでくじを作り始めた。


プレゼントがルキア・・・


ほ、欲しい!!





「どっちだ」

くじを握った両手を差し出され、その前で真剣に悩む俺たちはきっと滑稽だろう。

右と左の分かれ道。
その先に待つのはルキア。


選んだくじを渡され、緊張で喉がごくりと鳴る。

期待と不安で微かに震える指先でくじを開く。



それを理解するのにたっぷり五秒かかった。



「はあ!?」「何だこれ!?」


くじに書いてあったのは『当たり』の文字ではなかった。



「課題代行!?」(白)

「家事手伝い!?」(一護)



書いてある事は理解出来たが、意味が解らない。



「・・・ルキア、これ何?」


「何がって、お前たちへのプレゼントだ。今回は私の労働力がプレゼントだ。ありがたく思え!」

「じゃあ、そのリボンは・・・」



態々ルキア自信がプレゼントのように錯覚させたその赤いリボン。

そりゃ、ルキアの労働力なんだから間違ってはいないけど。間違ってはいないんだけど!



「ああ、これか?お前たちのプレゼントが何がよいか迷っている時に小島が、
“朽木さんにリボンを付けてプレゼントすれば喜ぶよ”
と、アドバイスしてくれてな。なるほど、今までこういった形でのプレゼントはしたことがなかったしな。斬新でおもしろいし、それにタダだし。
さあ、受け取れ私の貴重な労働力!」




絶対小島はそういう意味で言ったのではないだろうけど、きっとこういう展開も見越して今頃笑っているに違いない―――



しかもルキアの言う貴重な労働力の内容は、自分たちにとっては無用の長物。



勘違いの末路は、期待と緊張が一気に弾け、激しい脱力感に襲われた。


一瞬でも“ルキアがプレゼント”という恥ずかしい妄想に駆られた自分たちへの恥ずかしさも湧きあがる。




机につっぷして顔を上げられず呻く二人の姿に、「泣くほど嬉しいか」と、ルキアは一人上機嫌だった。




そんな僕らの7月15日





あとがき→

15記念です。
ボツにしようと思った、さすが作品です。くだらなさ爆発!(^O^)/


2010.7.20
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ