記念小説

□アンダーワールド
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深く暗い闇の中でしか生きられない孤独で悲しい一族なのだよ、私たちは・・・




夜の闇の支配者として君臨する吸血鬼――ヴァンパイア

傅く眷属は数多いるも、その頂点に立つのは強靭な肉体と生命力の強さで戦闘能力に秀でた人狼族――ライカン


人狼族は数多の眷属をまとめ上げ、その全ての力と忠誠心を主であるヴァンパイアに捧げていた。


主と従者。

絶対の従属関係。





「よい月夜だな、一護・・・」


「はい、ルキア様」



そびえ立つ古城のバルコニーからルキアは天空を仰いだ。
ビロードのような闇の空に大きな月が浮かんでいる。



「二人きりの時に敬語はよせと言っているだろう?一護」


「・・ああ、分かっているけどそう器量にころころ変えられねえよ」


途端、一護の口調と態度がガラリと変わった。


「不器用だな、貴様は」

くすくすと艶のある声で笑われ、一護は元々寄っている眉間の皺を更に強めた。


「んな笑う事ねえだろ。俺はお前みたいに大きなネコなんて飼ってねえんだから。“何が淑やかで麗しい闇夜の中たおやかに咲くただ一輪の花”だ。お前がこの前のパーティーで大猫被って愛想ふりまくもんだから、勘違いした芸術家気取りのあの男爵家の三男坊。お前にこっぴどく振られて、ニンニク喰っちまったみたいな酷い顔してたぜ。あの様子じゃ自分で太陽の下に飛び出して灰になりかねないぞ?」


「莫迦者、あ奴にそんな度胸などありはしないわ。せいぜい装飾の激しいへたくそな悲恋の詩でも書き続けるぐらいが関の山だ。・・・それに、日の光が見られるのなら本望ではないか」



ルキアは手を伸ばし一護の髪に華奢な指を絡めた。


「日の光はお前の髪の様に優しい色をしているのだろうか?
・・・私は見てみたいのだ、日の光を、太陽というものを・・・」



「ルキア・・・」



それは永劫叶わぬ望みだ。


ルキアはヴァンパイア―――闇の世界の君臨者の一族、その長の娘。

どんなに夜の世界で力と栄華を誇っても、昼の世界とは隔絶された存在。
一歩日の中にその身を晒せばたちまち塵に帰ってしまう。


一護が眉をしかめるのを見て、ルキアは小さく微笑むと一護に身体を預けるように抱き付いた。


「心配するな、お前を置いてそのようなバカな真似などせぬから安心しろ。・・・お前はずっと私のものだ、一護」


そう、俺はルキアのモノ。ルキアの所有物。


主であるルキアにもし何かあったら俺の所有者が替わる事になる。
人狼族は必ずヴァンパイアを主に持つことが掟だ。


ルキア以外の主に使えるなど考えただけでゾッとする。

幼い頃よりルキアは俺の全てを捧げ、忠誠を誓うただひとりの主だ。

本来なら絶対服従の下僕であるだけの俺に、ルキアは心を許してくれている。
俺もルキアも人前では絶対の主従関係を演じているが、二人きりになるとただの幼馴染の関係に戻る。

この関係が、それを許してくれるルキアが堪らなく愛しくてしかたがない。


俺は人狼の掟とは別に、ただ一護としてルキアを護ると誓っている。




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