記念小説

□痕
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「―――お別れだ、一護」

「―――じゃあな ルキア」


「ありがとう」



俺は、淋しそうな顔なんてしていなかっただろうか・・・

ちゃんと、笑えていただろうか・・・



俺の、人生最大の見栄―――




『BLEACH 423 痕』




ルキアと別れた後、皆とはその場で解散した。

チャドは大きく俺の肩をひとつ叩いて、
石田は無言で、
井上も何も言わなかったけど、帰る時何度も俺を気にして振り返っていた。


ルキアはもう行ってしまった事だけ教えてもらった。

皆にはルキアが見えるけれど、俺だけはもう見る事が出来ないから・・・。



家の中に入る前に、もう一度空を見上げた。

嫌味なぐらいの青空にルキアが飲み込まれ、融けて消えてしまったような気がした。
そんな訳ないのに何だか憎たらしくて、空を睨んだ。




部屋に戻ってベッドに腰掛けた。

現世に帰って来てからもう一カ月経ったというが、今日目覚めたばかりの自分にとっては実に久し振りなのだ。



何一つ変わらない部屋。


たいして広くもない部屋に先程までは俺の他に4人も居たせいか、何だかいつもより広く
感じる。


―――そう、さっきまでそこに居たのだ。



きゅうと胸が掴まれるように啼いた。

視線の先にある押入れが目に入った。
何とはなしに押入れの戸を開けてみる。

出会ってから、ルキアがソウル・ソサエティに連れ戻されるまで隠れながら寝起きをしていた場所。
いくら小さいからって、よくこんな狭い所に収まってたよな。
しかもあいつ、先遣隊としてうちに正式な居候になった時もここで寝泊まりしようとしてたからな。結構ここが気に入っていたに違いない。



何も変わらないと思っていた押入れの中に変化がある事に気が付いた。

片付けられたはずの押し入れの中が僅かに乱れている。


誰かがここで眠っていた跡。


こんな所で眠るなんて、あいつ以外考えられない。



もしかして、俺が目を覚まさなかった一カ月の間、ルキアはここに居たのだろうか?

俺の傍にずっと居たのだろうか?



少し乱れた布団の上にそっと手を置く。

僅かな温もりの跡を期待したけど、当然そんなもの残ってはいやしない。


ふと、端の方に一冊の漫画が布団の隙間に挟まっているのを見付けた。
現世に居る時にルキアが夢中で読んでいた、よく分からないオカルト漫画だった。

何気なくパラパラとめくったページに、胸が潰されそうになった。


ページのいたる所についていた、ポタポタと水滴が落ちたように濡れて渇いた痕。



―――涙の痕。



何度も何度も零して付いた痕。

淋しそうな顔するな?淋しかったのはてめえじゃねえか。



出会いと別れを繰り返した。
命を助けられた。力を貰った。面倒だと思った。駄目だと思った事もある。力を欲した。がむしゃらだった。よかったと思った。怖かった。励まされた。背中を押された。絶望を知った。それでも希望はあった。

それなのに平和の代償に支払った力は、ルキアとの繋がりをぷつりと断ち切った。


覚悟は出来ていたはずだ。それなのに―――




部屋をぐるりと見渡す。窓から見える外の風景も。

その、世界のあまりの静寂さにぞっとする。



耳鳴りがするぐらい静かな世界―――


堪らず漫画本を胸に抱き締めた。

この世に唯一、自分が見る事の出来るルキアがいた痕を、代わりのように。



なあ、ルキア。俺は後どのくらい待てばまたお前と会えるんだろうな。

会えたとしても、俺はもうお前と肩を並べてあの空を駆けて行く事は望めないのだろうか。


お前はそれを淋しいと思ってくれるだろうか。

俺は、自分で決意したくせにもう淋しくてしょうがないんだ。

すげえ情けねえだろう?

だから、早く会いに来て。
だけど、今の俺はかっこ悪いから来んじゃねえぞ。



てめえの前では絶対意地でも淋しい顔なんかするもんか。





あとがき→


一応、一周年記念第一弾なのですが、423の衝撃がまだまだ引きません。
他のサイト様でもこの423前後の話を書いている方が多くて、感動しました。
そうだ、ここで書かなきゃ書く機会を失うじゃまいか!と、イチルキスキーの端くれとして真似っこで参戦。そしてみごとに撃沈;;
うちの一護は通した意地は張り続けようと無駄な足掻きをしております。
だって、力を完全に失ったということは、もう一生ルキアさんに一護からは会う事、見る事すら出来ず、死んでソウル・ソサエティに行ったとしても霊力ないから死神に復帰する事もないという事ですよね。まあ、今後の本誌展開でそんな事になる訳ないのですが・・。
今の段階として、のお話です。
今後のイチルキ展開を本当に楽しみに、本誌のイチルキ再会と共に明るい未来を期待する所存です。
第二弾は明るく楽しい系で「サン・ハウス」の幕間話になる予定です(^O^)/




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