記念小説
□オーシャンプラネット
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ずっと繋がっている
一枚のポスターの前で立ち止まるルキアに一護は声をかけた。
「ルキア、どうしたんだ?」
「この絵・・とてもきれいだな」
ルキアが見ていたのは、海とイルカの描かれた人気の画家の展覧会案内。
美しい色調で描かれた海で二頭のイルカが仲睦まじく泳ぐ絵を、ルキアは夢中で見詰めている。
「一護、これはこの前テレビで見た動物だよな?」
「ああ、イルカだ」
数日前テレビで海洋特集をしていて、そこにイルカが出て来たのだ。
ルキアは見た事のない海の動物に興味深げにテレビに釘つけになっていた。
特にこのイルカが気に入ったようだ。
イルカのヒーリング効果とかも扱われて、それを見たルキアは「井上に似ている」と言って喜んでいた。
イルカはより傷付いたものを察知し、寄って来るという。
海の中の優しい生き物。
確かに、優しくて癒し系の井上に似ているな、でも・・・。
「・・・今度さ、見に行こうか。イルカ」
「えっ!?」
ルキアが驚いた顔で振り向く。
「って言っても本物の海じゃなくて水族館だけど」
「そこに行けばイルカに会えるのか!?行きたい!」
目を輝かせるルキアの頭に、一護はポンと手を置いた。
「約束だ」
「約束だぞ!」
嬉しそうに笑うルキアに、胸の奥にしまったはずの痛みが一瞬疼いて、それを隠すようにルキアの髪をくしゃくしゃに掻き混ぜた。
何をするのだ!と怒るルキアに笑って誤魔化しながら、じゃれ合うように家に帰った。
家に帰ってからも、ルキアは水族館に行く事が余程嬉しいのか、妹たちや親父にまで水族館の事を話していた。
てっきり「一緒に行きたい!」と騒ぐかと思ったが、俺に向けられた家族の顔が、皆一同に「よくやった」と言わんばかりの笑顔だったのが逆に薄気味悪くてしかたがない。
その雰囲気に居たたまれなくなって逃げるように自分の部屋に戻ると、少し後からルキアもついて来た。
何となく顔を合わせづらいとか思っている俺と違ってルキアはけろりとしていたが。
ベッドに腰かける一護の隣にルキアはちょこんと座った。
何も言わず、じっと下から見詰めるルキアの瞳とその近過ぎる距離にどぎまぎして「何だよ」と小さく毒づく。
「―― 一護、口を開けろ」
「へ!?」とまぬけに開いた口の中に甘い塊が放りこまれた。
びっくりしながらもそれが一粒のチョコレートだと直ぐに分かった。
驚いたままもぐもぐと咀嚼して、ごくんと飲み込む。
「急に何すんだよ!」
「ちょこれいと、好きだろう?」
「・・・好きだけど」
確かにチョコレートは大好物だけど、それと今のこの状況が分からない。
「―――元気出たか?」
じっと見詰めるルキアの瞳の奥に、憂いの色が見えた。
「・・・最近、貴様元気がなかっただろう?・・・あの、海のてれびを見てから」
「・・・そんな事ねえよ」
ルキアの真っ直ぐな視線に耐えられなくて目線を外すと、ぐっとシャツの袖口と掴まれた。
「何を不安がっている?」
見透かされていた気持ちに、どういう顔をしてよいのか逡巡していると強引にチョコレートの粒をもうひとつ唇に押しつけられた。
「ほら、もうひとつチョコレートを食え」
それで元気を出せとでも言わんばかりに押しつけられたチョコレートと、ルキアの必死な顔。
思わずそのままルキアの指からぱくりと唇でチョコレートを受け取ると、ルキアは満足そうに目を細めた。
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