記念小説
□雨の日のお話
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朝から水分を含んだ空は、とうとう夜になり地上に落ちて来た。
「・・・降ってきたな」
「ああ・・・」
ベッドで雑誌を読んでいた一護の脇でルキアは窓から空を見上げた。
墓参りの時降られなくてよかったと、一護は思った。
ルキアがいて、雨が上がったから。
もう、自分は大丈夫なのだけれど。
それでもこの日に雨が降ると、どうしても気持ちが沈みがちになってしまう。
ドスン、と突然腹に衝撃が走る。
一瞬息が止まって、腹の上に跨いで座る犯人に文句を言ってやろうと睨みつけた。
「ルキア・・てめえ・・」
「一護」
ルキアが俺の顔を両手で挟むようにして、酷く真剣な眼差しで覗きこんで来た。
近い!近い!近い!その近さにうろたえる。
「な、な、なんだよ!?」
ドキドキが隠しきれず、僅かに声が裏返ってしまった。
「もしも雨に味があったら何味がいい?」
「はっ!?え、えっと・・・チョコ?」
「うむ、やはり貴様はそうくるか。意外性のない奴だ」
「・・・何のお話でしょうか」
「だから“もしも話”だ」
人の腹の上で、話の通じん奴めと偉そうにしているルキアに若干いらっとする。
・・・とりあえず俺のドキドキを返してくれ。
「何の話だ、コラ。まず俺の上からどけ」
「私はな、黒蜜味がよいと思うのだ」
一護の言葉をさくっと無視して、ルキアは話を続けた。
無視するんじゃねえ、このやろう。
内心毒づく、けれど・・・・。
「黒蜜?」
「そう、そして白玉が降ってきたら最高だと思わぬか!?」
ルキアはキラキラと瞳を輝かせてその光景を想像しているようだ。
「・・・思わないし、お前だって意外性ないじゃねえか」
「なんだと!私の黒蜜白玉に文句があるというのか!?」
「大体、雨の味のもしも話だったんだろ?白玉ってもろに固形物じゃねえか」
「白玉はよいのだ、夢があるから。ほら雪のようだし。・・あ、雪の代わりだ。雨は雪にもなるからな。だから白玉が降ってきてもおかしくない」
「おい、今思い付いただろ、それ。なんだよ、そんなんでいいんだったら辛子明太子でも降らしてくれよ。そんでふっくら白飯。サイコー」
「・・・何だか夢がないな」
「なんだよ、あるだろ。少なくとも黒蜜白玉の白黒なモノトーンより、ピンクと白の色味の方かパステルカラーでかわいいじゃねえか」
「かわいさを求めるのか?ならば、チャッピーだ!チャッピーが降ってくればよいではないか!」
「・・・それ、もう食べるものでもないじゃねーか」
「コーヒー牛乳」
「いちごオレ」
「アイスクリーム」
「プリン」
「ラーメン」
「カレーライス!」
え〜、と、突っ込みが入る。
今まで言い合ったものが全部地上に降ってきた惨状を想像して二人で噴出した。
さっきまでの沈んだ気持ちはもう何処かへ消えてしまった。
くだらない話でこんな日に笑えるのは、きっと、君のおかげ。
**
「ルキアちゃん・・・今日は私たちと三人で寝る約束してたのにな」
「しかたないよ、諦めな遊子」
「うん。残念だけど、あんな気持ち良さそうに寝てたら起こせないよね」
「そうだね・・・」
一護の部屋の入口から中を覗いていた夏梨と遊子はそっとドアを閉めた。
「何かいい夢でも見てるのかな。お兄ちゃんもルキアちゃんもとっても幸せそうだったね」
無邪気な遊子に、そうかもね、と夏梨は曖昧に答えた。
一瞬イカガワシイ事を考えた自分が恥ずかしい。
「それにしたってさ、健全過ぎるでしょ!?」
親父はこの年頃は『発情期』とか言ってたけど、うちの兄に関してはあてはまらないらしい。
仲いいんだけどなぁ。それこそ誰も入り込めないくらい。
二人が本当にくっつくのはいつのことになるのやら。
すやすやと寄り添って幸せそうに眠る二人を思い出しながら夏梨は小さな溜息をついた。
雨の音も今は子守唄
6/17 memories in the rain 餡子
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