企画小説

□泡沫の夢
(三×幸)
2ページ/4ページ


「私に必要なのは、食事や睡眠などではない。家康を、この手で討ち取ったという事実だ。」


「みつ‥」


「同盟を結んだ以上、貴様もその為だけに働け。他など要らん。」




目的はただ一つ。
それを成すまで、止まる事など出来はしない。






それなのに、この男は‥






………――







「やれ三成、今日は不機嫌に輪を掛けておるな。」


「‥刑部…」


「虎若子に、小言の一つも言われたか?」


「煩い!黙れ!!奴は関係な‥ッ」




声を荒げハッとする。私を見る刑部の目が、愉しげに細められるから‥



だが、気付いた時にはもう遅かった。



包帯で見えぬはずの刑部の顔は、これ以上ないくらいの笑みを浮かべていたのだから。





「三成よ、ぬしは変わったな。」


「何が‥言いたい?」


「それを我の口から言ってもよいのか?」




「………」

「………」




「分かった、何も言うな。」




言われずとも、私が一番分かっている。




「ぬしの寝言など、我は今の一度も聞いた事は無いがなあ。はて、あの虎若子は何度も…「刑部!何も言うなと言っている!!」



ムキになっては負け。そう分かってはいるのに、必要以上に声を荒げてしまう。


真田の存在が、私にとって特別なものだと刑部の言葉が認識させるから‥



例え深い眠りについていようと、私の刀の届く距離に近付けば誰であろうと意識は覚醒する。
それなのに、もう何度真田に揺り起こされたか分からない‥

目を開けたとき、あの琥珀の瞳を何度間近で見た事か‥




「そう目くじらを立てる事もあるまいに。心許せる者の存在は貴重よ。」

「心許せる?私がいつ‥ッ‥」


「起こり得た事は覆らぬ。そうよのう、三成?」


「ッ……」




悔しいが刑部の言う事は正しい。心許す‥その表現が正しいかは分からないが、真田の存在に対し私の警戒心が欠如しているのは確かだ。



真田は、今まで築いてきた私を‥ この石田三成を壊していく。

読めぬ男だ。




「刑部、その目に真田はどう映る?」


「そうよのう‥ 言葉に表すのはちと難儀よな。」

「それでは答えになっていない。」


「ならば三成、ぬしはどう見る?」




私? 私は‥真田を‥

 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ