企画小説

□sweet home2
(三×幸)
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「‥接客に御座る。」


「そう、正解だ。褒美にこれをやる。」





と言われ渡されたのは紙袋で、今度こそ絶望に沈んだ。





「何でもやるってはりきってたのはお前だぞ、幸村。」


「政宗殿‥」


「絶対似合うから安心しろ。俺が保証する!」





ニッと政宗殿は笑みを浮かべるが、そんな保証嬉しくともなんともない。



三兄に言えぬ事‥そう、それは文化祭でメイド(女装)として接客する事なのだ。




………――






(はぁ…)




何とか試着は免れたものの、当日までに慣れて来いと半ば無理やりメイド服を渡されてしまった。

女性ものの服に、慣れる事などあるので御座ろうか?


そんな事を考えていれば、靴を脱ぐのも忘れ玄関に立ち尽くしてしまっていた。




「‥むら、幸村?」


「ッあ!? 三‥兄?あ‥お帰りなさ‥」


「何が『お帰りなさい』だ。『ただいま』だろう?」





コツンと額を叩かれ、その優しい痛みに現実へと引き戻された。




「そ‥そうで御座った!ただいまで御座るッ!!」




瞬時に靴を脱ぎ揃え、三兄の横を通り過ぎる。その手には決して中身を見せられない紙袋が‥





「待て。」





ドキッ!



呼び止められ、体が硬直する。まさか‥





「な‥何で御座るか?」

「夕食のハンバーグは洋風、和風どちらがいい?」


「え? えと、じゃあ洋風‥で。」


「分かった。」





それだけ言うと三兄はキッチンへと行ってしまった。


ホッとしたような、気が抜けたような‥ 複雑な気持ちで三兄の背を送り、とにかく自分の部屋を目指した。






部屋に入っておもむろに姿見の前に立つ。自分の面立ちは確かに男らしくはないかもしれないが、かといって女顔でもない。

チラチラと紙袋を見つめては「う〜」と唸ってしまう。





(本当にこれを着なくてはならぬのか?)





何でもやると言ったのは確かに自分。一度口にした事を撤回などしたくはないが‥ 紙袋から取り出したメイド服を目の当たりにすれば、そう思ってしまうのも無理はない。




(1日の‥それも数時間の辛抱で御座るな。)





これも一つの試練だ‥


そう自身に言い聞かせ、服を紙袋に戻した。

 
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