過去拍手集
□佐+朱羅+幸村 2月後半
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「朱羅ッ! 某に遠慮など要らぬッ、もっと攻めて参れ!!」
声を張り上げ幸村は二槍を振るう。
「それが主のお望みならば…」
朱羅と呼ばれる男は応えるように刀を持つ手に力を入れ、幸村へと斬りかかる。
ガキンッガキンと火花を散らす二人だが、その顔はとても楽しげだ。
「まぁたやってるよあの二人…」
少し離れた木の上… 幹に身を預け佐助は二人の様子を見守っていた。
「しっかし朱羅もこうして見てると、ただの人間にしか見えないんだけどな… その正体が槍だなんて誰が思うのさ。」
頬に手を付き佐助は思う。
そう『朱羅』と呼ばれる男は人ではない… ひょんな事から人型を得てしまった、幸村の槍だ。
最初こそ警戒していた佐助も、数日経つうちにすっかりその存在を受け入れていた。
「旦那もベッタリだしなぁ。な〜んか俺様寂しい…」
口ではそう言いつつも、二人の姿に佐助は優しい笑みを浮かべた。
その二人は相変わらず打ち合いを続けている。
「主、右を振り抜いたあと、左の守りが弱くなる… 」
「くッ!」
朱羅は幸村の僅かな隙を突く。
「左を突く前には右が上下に振れる… これは主の癖‥」
ヒュンと刀を振れば、幸村の髪が少しパラリと散った。
「何とそのような… 某もまだまだだな。」
流れる汗を手で拭い、幸村は己の未熟さを痛感した。
「それは朱羅が旦那の一番近くにいて、いつも旦那を見てたから分かる事でしょ? クセなんて、自分じゃ気づかないもんさ。」
そろそろ終わる頃だろうと察し、佐助は二人の前に現れた。
「旦那、今日はもうこの辺でいいんでしょ? 鍛錬もやり過ぎは禁物ってね。」
佐助はそうい言うが、幸村はブンブンと頭を振った。
「何を言う佐助! まだまだこれからだ。 朱羅に指摘された隙も癖も直さねばならぬというのに!」
かれこれ長い事槍を振り回しているというのに、幸村はまだまだやる気満々だ。
「根を詰めたって仕方がないって言ってるの。クセが分かっただけでも凄い事だよ?」
やれやれ…と、佐助は困った笑みを浮かべた。
「しかし…」
「しかしも菓子もない!はい、風邪引かないうちに汗流してくる!」
有無を言わさず槍を取り上げ、佐助は幸村を屋敷の中に押し込んだ。