過去拍手集
□小十幸 1月後半
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ちらちらと、視界に入る紅い影… 見るつもりは無くとも、それは自然に目に入る…
(最近、軍の雰囲気が変わったな…)
部下の様子を見ながら、小十郎は考えていた。さほど大きな変化ではないが、笑顔が多く見られるようになった… そう思うのだ。
締まりが無いのは軍の志気に関わる…が、そうでもなく、小十郎が喝を入れる事はなかった。
(これもアイツの影響か…)
歩いていけば小さな人集り。その中心には紅い装束を身に纏う真田幸村の姿。
甲斐と奥州が同盟を結んでから、使者として度々この地を訪れる幸村だった。
「片倉殿ッ!」
小十郎の姿を見つけ、幸村は駆け寄った。
残された伊達軍の面々は、小十郎の睨みにそそくさとその場を後にする。
「お邪魔しておりまする、片倉殿。」
礼儀正しく頭を下げる幸村だが、小十郎の視線は鋭いままだ。
「真田、こちらに来るのは明後日と聞いていたが?」
前に届いた文には、確かに二日後の日付が記されていた。なのになぜ幸村がここに居るのか… 同盟国とはいえ、主の留守を預かる身としてその真意を知る必要が小十郎にはあった。
「誠、申し訳御座いませぬ。 突然の訪問、御迷惑と思いつつ某の私用にて参った所存に御座りますれば…」
お館様に非は御座いませぬ… と、真っ直ぐ小十郎の目を見つめ、幸村は言った。
その目に濁りはなく、嘘は無いと小十郎は確信し、口を開いた。
「そうか… わかった。部屋は用意させる。」
「忝のう御座る。」
小十郎の申し出に、幸村は再度頭を下げた。
「しかし私用とは… 真田、すまねぇが生憎政宗様は留守だ。」
幸村が用があるといえば政宗にだろうと思い、主の不在を伝える小十郎だが、幸村から返された言葉は意外なものだった。
「いえ、某、用があるのは政宗殿ではなく、片倉殿なのです。」
「ああ、そうか俺か… ……… 俺!? ‥だと?」
思いもしない展開に、小十郎はらしくない声をあげた。
…………ー―
「しかし、本当に見事なものに御座いますなッ!!」
「俺一人の手じゃねえさ。だが見た目だけじゃなく、味もなかなかのモンだぜ?」