過去拍手集

□三×幸 第2話
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「おはようございます、三成殿!」

「‥ああ。」



幸村の明るい声と、三成の素っ気ない返事はほぼ毎日の習慣になっていた。
一週間ほど前、地元の図書館での出来事をきっかけに…



「今日も来て下さったので御座るな。」

「別に‥貴様の為に来ている訳ではない。」

「はい、心得ておりまする!」



三成の棘のある言葉にも幸村は惜しみない笑顔で返す。そこにあるのは、冷たさだけではないとすでに知っていたから。


隣同士に座っていても、三成から話掛けてくることは無い。けれど幸村が質問した事には簡潔、そして的確なアドバイスをくれるのだ。



「三成殿は、実に博学で御座るな!」



嘘偽りのない幸村の言葉は、三成にも少しずつ影響を与えていた。いつもなら嫌味に聞こえるこの言葉も、幸村からのものと思えば素直に受け止められていたのだ。

課題をとうに終えていたにもかかわらず、こうして図書館へと来てしまうのは違う目的のためだと三成自身気付き始めていた。



(私が、こんな感情を抱く事になろうとはな‥)




気が付けば、視線は幸村へと向いている。眉を寄せ、必死に本と向かい合う姿に自然と口元が緩んでしまう。

一人でに走り出す感情に流されながらも、幸村と過ごす時間に安らぎを感じていた。

手を伸ばせば届く距離‥そっと柔らかな赤茶の髪に触れればぶつかる視線…



「三成殿?」



その口が自分の名を呼び、その瞳が自分だけを写す。この事実が、三成の独占欲を満たしていた。



「私は…」

「三成‥殿?」

「ッ!!」



あまりにも真っ直ぐで、あまりにも純粋な眼差しに、三成は思わず顔を背けてしまった。内に燻ぶる黒い焔を隠すように‥



「どこか御気分でも?」

「‥いや、何でもない。」

「しかし‥」



身を案じた幸村は三成に手を伸ばすのだが、三成はその手を拒んだ。



「私に触れるな!」

「あ…」



思いの外大きな自身の声に驚きつつ、視界に入ったのは寂しげな幸村の瞳だった。



「‥私は…」

「すみませぬ。出過ぎた真似で御座った。」



弾いた手を責めるどころか無理に笑顔を浮かべ謝罪する姿に、三成はただ黙る事しか出来なかった。



(違う‥私はただ…)



近くて遠いこの距離に、三成は一人思い悩んでいた。

 
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