小説2
□朝
(就+幸)
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「幸村。」
「……ん…」
どこか、元就殿に呼ばれているような気がする。
低く、けれど優しく静かな声色で。
返事をせねば…と思うのに、目蓋はまだ、重いので御座る。
「幸村。」
「んぅ…」
「まだ、眠いのか?」
「……」
まだ、眠いので御座る。
元就殿の声は、ちゃんと聞こえている。
起きなければならないという事も分かってはいる。
でも、昨夜寝たのは…
いや、昨夜というよりは朝方と言った方が正しい。眠る前に見た時計は、もう4時を示していたので御座るから。
日付が変わる前にはいつも寝てしまう某にとって、かなり無理をした。
それもこれもみな、元就殿が、元就殿が…
「ッ…」
「幸村?」
まだ寝ぼけていても分かる。この頬が熱くなっていくのが。
はっきりと残っている。
元就殿のぬくもりが、まだ…
と、兎に角某はまだ寝ていたいので御座る!せめて、もう少しだけ…
「朝食に、パンを焼いてみたのだが?」
…え?
「幸村が好きだと言っていた、クロワッサンなのだがな。」
…。
「そうそう、卵焼きも作ったぞ。勿論甘くして…な。」
……。
「一応デザートに杏仁豆腐も用意したのだが… 幸村は、まだ眠るというのだな?」
……ズルいで御座る。
元就殿はズルいで御座る。
器用で、何でもこなしてしまう元就殿が作られたクロワッサンなど、どれほど美味であろうか。
某は洋食より和食派ではあるが、クロワッサンは別。
パンでありながら、あのサクサクとした食感がたまらないので御座る。
それに甘い卵焼きも、大好物なのだ。
「どうした?まだ眠るのではなかったのか?」
「……起きまする。」
「無理をせずとも今日は休みだ。ゆっくり…「起きまする。」
本当は、まだまだ眠っていたいという気はある。
お腹も空いてはいるが、空腹よりも僅かに眠気が勝さってはいる。
けれど…
「元就殿が用意してくださった朝食、食べのがすわけには参りませぬ。」
「素直に『食べたい』とは言えぬのか?」
「元就殿とて『食べて欲しい』と言って下さればよろしいので御座る。」
口を尖らし、そう言ってみた。少しばかり、反抗的に。
「無理強いはせぬ。嫌ならば…「嫌ならば、どうするというので御座るか?」
口で元就殿に勝てるわけはない。それは分かっている。が、朝方4時まで起きていなければならなかった昨夜の行為に、このくらいの抗議は許されるはずで御座ろう?