小説2
□新婚☆ですから
(家×幸)
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「起きて下され家康殿、朝で御座るよ。」
「う? ん―、あと5分…」
「駄目で御座る!朝御飯を食べる時間が無くなってしまいますぞ?」
「…じゃあ、お早うのちゅーを…」
ぼすん!!
「わぶッ…」
口を突き出せば、まったなしに顔面に枕を投げられてしまった。
「あ…朝から破廉恥で御座るッ!早く起きて、顔を洗って来て下され!!」
パタパタと、寝室を出て行く妻の後ろ姿に顔が弛む。
毎朝同じような事を繰り返しても、全く慣れる気配はない。
カアァ…と頬を紅く染め、いつまでも初なまま…
「しかしちゅーが無いのは寂しいなぁ…」
恥ずかしがり屋な妻は可愛いし、不満なんてワシはない。
ただちょっと… あとちょっとの積極性を望むのは、ワシの我儘だろうか?
「家康殿―――!」
「ああ、今行くよ。」
呼び声に応えベッドを抜け出す。
このままでは本当に朝御飯抜きになりかねない。
今はまだこの我儘をベッドに残し、温かな食卓へと向かった。
………――
「お弁当にハンカチ、ティッシュと携帯…」
「大丈夫だ。しっかり者の奥さんのお陰で、忘れ物はないよ。」
「し…しっかりなど、某はまだまだで…」
思った事を口に出せば、妻は嬉しそうに微笑む。
その笑顔を見れば、今日も一日頑張れるなぁ…と会社に向かわねばならないのだが、離れがたくなるのもまた事実。
「家康殿?」
「あ…いや、そのな…」
置いてきたはずの我儘は、どうやらワシの中にまだまだ根付いていたらしい。
行ってらっしゃいのちゅーが、欲しい…とか…
「?」
「いや、何でもないんだ。じゃあ行って来る。」
…いかんいかん。
幸村との時間は、帰宅してからだって十分にある。
結婚して一緒に住んでるわけだし、数時間我慢すればまた会える。
「それじゃあ…な。」
後ろ髪引かれる思いを押し殺し、ドアノブに手を掛ける。
ここを出たら一家の主として、今日の勤めを果たさねば…と。
しかし意気込んだ体は何故か反転し、玄関を出る事なく部屋を向いている。
思わず「へ?」とワシは間抜けな声を漏らしてしまった。
「え…と、幸村?」
反転した理由はすぐそこにある。
ワシのネクタイを、幸村がギュッと掴んで引っ張っていたのだ。
「い…家康殿、忘れ物が…」
「忘れ物?あれ、何かまだあったかな?」
忘れ物と言われ、スーツのポケットを探りながら確認する。
あれと、これと…
うん、全部ある。
再確認をし、大丈夫だと顔を上げた瞬間…
幸村の顔が、すぐ目の前に迫っていた。
「ゆ…」
呼ぼうとした声は、甘く柔らかい幸村の唇に吸われ消えてしまった。
何が起きたのか分からなくて、ワシはただそこに立っているだけの人となっていた。
長いような短いような幸村からの口付け。
離れたその顔は、茹で上がったように真っ赤に染まっていた。
「い…行ってらっしゃいの、ちゅーで御座る…」
普段からは想像出来ないほどの小さな声。
余程恥ずかしかったのか、幸村は「お気をつけて…」とワシに告げると部屋の奥へ逃げるように向かって行く。