小説2

□こんな恋もありだろ!
(政×幸)
1ページ/6ページ


「うぁッ!? 熱ッ!!」







ガラガシャンッ!!







今日もキッチンから響く悲鳴のような叫び声と、盛大な物音に「やれやれ…」と思う。

毎日毎日同じ事を繰り返して、アイツは投げ出したくなったりしないのだろうか?





読みかけの雑誌を閉じ、キッチンへと向かう。
そこにはひっくり返ったフライパンと、晩御飯になるはずであったものの残骸…







「あ… すぐにご飯に致すから、もう少し…」


「…」







せっせと片付けをする幸村を、俺はただじっと見つめていた。



慣れない家事を毎日懸命にこなそうとするのは、あの女の為?
俺なんかを生んだ、あの女の…







「なあアンタ、なんでそこまでするんだよ?」


「それは勿論、某が父親であれば…」


「『実の』じゃあねえだろ?」


「それは… 関係ありませぬよ。」







そう言って、幸村は俺に笑ってみせた。





実父の事は何も知らない。母親が18で俺を生んでから今に至るまで、会った事もねえしな。



そんな俺に突然出来た『父親』それが幸村だった。
けど幸村は、あの女が好むようなタイプじゃねえ。

ただ単に、俺を押し付ける相手が欲しかっただけだろう。





十も違わない歳に、あの幼い顔…
人を疑う事を知らず、裏切られる事も知らない。







「アンタ、『超』が付くほどの馬鹿だよな?」


「ばッ…!? 政宗ッ!親に向かってッ…!!」


「童顔のくせに偉そうに言うなよ。端から見りゃ、俺の方が年上だ。」


「か…顔など関係御座らぬッ!!」







真っ赤になって怒る様は、とても25になる男のものとは思えない。
高校生である自分の方が、外見も中身もよっぽど大人に違いない。







「政宗…もういいから、向こうに…「今日は何を作るつもりだったんだ?」


「え? あ… その、オムライスを…」


「オムライスか… 分かった。」







キョトンとしたままの幸村からフライパンを取り、自分がキッチンに立つ。
きっとその方が早え。







「政宗、料理は某が…」


「いいから、アンタはちらばったもん片付けといてくれ。」







家事もろくにしない母親を頼らず、自分が食べる為に料理はよくやっていた。
血も繋がらない父親の為に、まさかこうして腕を振るう日が来るとは思わなかったが…





……
………







「政宗は天才で御座るなッ!すっごく美味しいで御座るッ!!」


「おいおい、もっと落ち着いて食べろよ。アンタはガキか?」


「はひてはごははぬッ!!(ガキでは御座らぬ)」







食べながら喋るその行儀の悪さもどうかと思うが、その幸せそうな顔に胸の奥がほんのり温かくなっていくのが分かる。


こんな風に、誰かと笑いながら…







「母上殿も安心で御座るな。こんなにしっかりした…「あの女は関係ねぇよ。」


「政宗…」


「頼みもしないのに勝手に俺を産んだ。それだけだ…」







一気に冷めていく空気。カツンカツンと食器の音だけが響く。







「どういう理由で、アンタがあの女と一緒になったかは知らないが、やめといた方がイイぜ?」


「政宗ッ!?」


「余計な不幸を背負うだけだ。」







そう言い捨て、自分の部屋へと戻った。
あの女の事で怒る幸村の姿を、何故か見てはいられなかった。







………――










「お早う、政宗。」


「…」







朝起きれば、いつもと変わらぬ幸村が俺を迎えてくれた。

 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ