小説2

□永久の誓い3
(三×幸←家)
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ドドドッドドドッ!





一分でも、一秒でも早く辿り着きたい!

手綱を強く握り、ただ… ただひたすら前へッ!







「真田、気持ちは分からなくもないが、それでは馬がもたないぞ?」


「はッはあッ!」


「真田…」







分かってはいる。
分かってはいるが…

今は止まる事が出来ぬッ!!





国を滅ぼし、滅ぼされるのは戦国の世の常。

だが某は、御館様より託されし国を、民を蔑(ないがし)ろにしていた。
特に西軍… 三成殿と同盟を結んでからは、殊の外…



三成殿と過ごす日々は心安らぎ、いつしか大将という重責から目を背けていた。


そして、その結果がッ…





甲斐への襲撃を許したのだ。







「大将…失格に御座る。」







何と愚かで、何と無力な事か…
今はただ、皆の無事を祈る事しか出来ぬなど。








真田の瞳が、後悔と自責の色を灯している。


苦し気なその表情を見るのは心苦しいが、ワシはそんな顔でさへ艶やかさを覚えてしまう。



それに…





そうさせたのが自分自身である事に、喜びさへ感じている。





(すまないな、真田…)





決して悪意からではない。甲斐の民に恨みがあるわけでもない。


ただ…
そう、ただワシの想いの深さを知って欲しいだけなんだ。


三成よりも、誰よりも一番に想い、強く強く渇望するこの心を。







「はあッ、はぁはぁはッ…」







二馬身ほど先を走っていた真田は、突然速度を落とし… ついには馬を止めてしまった。
その視線の先は、ただ前方を映しているだけだろう。







「徳川殿… 某は… 道を間違えたように御座る…」







震える声色。
それは眼前に広がる光景を、受け入れられない真田の心の表れ。







「真田、間違えてなどいない。ここは確かに…「言わないで下されッ!!」







幼き頃よりこの地で育ち、この国と共に生きてきた。
川の流れも、地の起伏も、全てが体に染み付いている。



だから…
だからッ…







「これは… 酷いな…」


「…ッ!」







ここが甲斐であることは…
間違いなどではないのだ。







守りたかったものは何?
なぜ、某は強くなりたかったのか…







「うあああああッ!!」


「真田!」







馬を降り駆け出す。
民家が崩れ落ち、未だ燻(くすぶ)る城下の中を。







「待て!落ち着くんだ真田!」


「離して… 下されッ…」







濃い… 血の匂い。それに混じる、肉の焦げた匂い。辺りを見れば、人であったであろう塊が無数に転がっている。







「あ… ああ…」







受け入れ難い現実。
心はこんなにも痛むのに、涙が流れる事はない。





甲斐が…
御館様の築かれてきた国が、今…







「おやか…た… 様… 御館…様…」


「真田…」


「そう…で御座る。御館様は、まだッ!」


「真田!」







まだだ…
まだ、某には御館様がおられる!


あの偉大な存在があれば、きっと、まだ前へ行ける!







「御館様あぁッ!!」







屋敷に入り、真っ直ぐ御寝所を目指す。
伏せておられるとはいえ、大きなあの掌が某の背を押して下さるのだ。







「御館様!真田幸村、只今戻りまして御座い…ま…」






駆け込むように部屋に飛び込む。
けれどそこに人影はなく、争ったような刀傷と…







「いや…だ…」







四方に飛び散った血痕が
、残されていただけだった

 
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