企画小説

□僕らの青春
(政×幸)
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どきん、どきん…



鼓動が早くなる。








どきん、どきん…



その姿を見ただけで、その声を聞いただけで。










ああ、俺はおかしくなってしまったのだろうか?


幼馴染みとしてずっと共に過ごしてきた政宗殿に、こんな…こんな…








「Hey幸村!モタモタしてると学校遅れるぜ?」


「あ…す、すみませぬッ!」








長い前髪から覗く、透き通るような隻眼が己に向けられる。
名前を呼ばれ、柔らかく微笑む政宗殿のその顔が…





俺は一番好きだ。








「? どうかしたのか?」


「いえ、何でもありませぬ。」








政宗殿の事を、もっともっと知りたい。
今まで以上に、もっともっと深く。








「今日は体育ばっかだな。だりぃ…」


「体育祭が近い故、仕方ありませぬ。」








けれど怖くて、一歩を踏み出せずにいる。
この気持ちを知られたら、今の距離さえ壊れてしまいそうで。








「まあ、だが勝負とあっちゃあ負けられね―な。」


「え…」


「幸村、アンタのクラスにはぜって―負けねぇからな。」


「の…望むところで御座るッ!」









政宗殿が離れてしまうなら、政宗殿に嫌われてしまうくらいなら、この気持ちは胸に閉じ込めておこう。


ずっと、ずっと…








………――










今日は学年ごとの合同練習。
クラスは違えど、同い年である政宗殿も勿論いるはずであるのに…








(いない…)








数多の生徒がいようと、一瞬で分かる存在。
その輝きの不在に、少しばかり心が沈む。








「……」








きっと屋上か保健室で、気持ち良く寝ておられるに違いない。





政宗殿は、いつも眠たそうであるから…





でも、そう言えば政宗殿の寝顔などもうずっと見ていない。
最後に見たのは…確か…








「真田――ッ!そっち行ったぞ――ッ!!」





確か…





「真田!!」


「え?」





ぼすんッ!!






あ―…と思った時には遅く、誰かの放ったボールを顔面で受け止めて、ゆっくりと視界がズレていくのを感じた。



体育祭になんで球技があるのかとか、ドッジボールは顔面セーフで御座るとか、そんな事を考えながら。











(何をやっているんだ俺は…)








親切に、誰かが持って来てくれたタオルで顔を冷やす。
けれど本当に冷やすべきは顔ではなく、汚らわしく不純で不埒な思考を巡らすこの頭かもしれぬ。








キーンコーンカーンコーン…








結局、サボり同然で授業も終わり皆が教室へと戻って行く。








「真田、タオル保健室に返しておけよ?」


「…分かり申した。」








皆の流れを外れて、一人保健室へと向かう。
もしかしたら政宗殿が…なんて小さな期待を抱えて。







カラ…


「失礼致しまする。」








ドアを開けて中に入っても、先生の姿はなく静かに時だけが流れてる。
タオルを返却し、すぐ教室に戻らねばならぬのに…


俺の足は、カーテンで閉ざされたベッドの前で止まってる。






だって、今ここにいるのは…







無造作に脱ぎ散らかされた上履き。
それを見ているだけで、こんなにも胸がドキドキしてしまう。








「あの、政宗殿…」








カーテンごしに小さく呼び掛けても、返る答えはない。

まだ、寝ておられるのか…

 
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