企画小説

□おんなじキモチ
(三+幸)
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これは、秀吉様や半兵衛様を思う『尊敬』とは違う。


未だかつて、抱いた事のない感情。
他人を『好く』という事。









だがどうやら、私は人を好きになったらしい。



この胸の温かみは、きっとそうに違いない。








西軍への参入を望み、私のもとを訪れた… 武田の真田幸村。


幼く、総大将としての経験も知識も浅い。
軍にとって必要な存在とは到底思えぬのに、私の意識を引き付ける。





私とは全てが逆のようであるからか…
持ち得ない、物珍しさからか。



とにかくただ、目が離せないのだ。

これが『好き』という感情ならば、なんと厄介なものだろうか?



今も、私のこの両目の先には…







「三成、如何した?」


「刑部か、いや…」


「あれは武田の… まこと騒々しき者よ。三成、癪に障るか?」


「癪に…」





ああそうだな。
私ばかりがこの感情に惑わされるのは納得いかない。

私ばかりが、貴様の姿を追うなど。







ザッザッザッ…







「おい真田。」


「三成殿? どうされました?」







きょとんとした表情を私に向ける。
その無警戒な姿に一瞬「う…」と言葉に詰まるが、真田の両肩を掴み大きな瞳を覗き込んだ。







「いいか良く聞け、私は貴様を好いている。だから貴様も…」





私を好きになれ。







そう言葉に出せば、真田は「はい!勿論で御座る。」と間髪を容れず満面の笑みを浮かべた。

その返答に満足した私は、早々にその場を後にした。




だから気付かなかったのだ。
この状況を見ていた刑部が、自在に操る数珠を落とし…

優雅に茶を啜っていた毛利がそれを吹き出し…

鍛練をしていた長曾我部が、碇槍を自らの頭で受け止め…

高い木の枝に身を預けていた真田の忍が、足を滑らせ落ちたなど。





………――










何故だ?
どうしてだ?



まったくもって気にくわんッ!!







「おお三成、ここにいた…「刑部! 真田はどこだッ!?」


「真田とな? あやつならば、今しがた長曾我部と海に向かったが…」


「長曾我部と… だと?」







姿が見えぬだけでも苛立たしいというのに、連れ立ってというのはどういう事だッ!!







「三成、何をそう腹立つ事がある? その怒り、表に出すにはまだ早い。」


「違う! これは家康に対するものとは、似て非なるものだ。憎悪のような黒焔ではなく、苛烈にこの胸を焦がす… 烈火の… ような…」


「ヒヒッ… よもや主がなぁ。」


「私の事より真田だ! 私というものがありながら、なぜ長曾我部などとッ!」


「まあ、あれに悪気はなかろうて。魚を食したいと話していたのを、たまたま鬼が聞き連れ出したまで。」







くそッ…



魚など、いくらでも私が!







「どこに行く、三成?」


「川だ。魚など、海に行くまでもないと証明してやるのだ。」







川魚に海魚…
今宵の夕餉は魚ばかりか。

やれ困った困った。











「おお! これ全て、三成殿がお一人で釣られたので御座るか?」


「ああ、このぐらい大した事はない。」







一匹一匹の大きさは小さいものの、数量では長曾我部の釣果を軽く超えていた。







すごいすごいと童子のよう、瞳を輝かせ真田は私を見つめる。

そう、私だけを映すその姿にただ満たされるばかりだった。

 
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