企画小説

□君が好きだと叫びたい!
(三×幸+孫)
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下駄箱に入っていた一枚の紙。
いつもならば開く事もなく破棄してしまうのに…



なぜか今日はそうする事が躊躇われた。






カサ…と綺麗に畳まれた紙を広ければ、お世辞にも上手いとは言えない字で『屋上で待っています』と書いてある。







「……」







正直、この類いのものにはうんざりしている。

私の外見だけに見惚れ、勢いのまま告白してくる女共が何人いたか…

そして付き合う事を了承をすれば馬鹿みたいにはしゃぎ、一週間経った頃には「イメージと違った」と勝手に別れを告げ去っていく。

当たり前だ。なぜ私が貴様らの望むよう振る舞わねばならぬのだ。
思い返せば、小さな怒りが湧いてくる。


紙をくしゃりとポケットにしまい、屋上を目指す。もう了承などするものか… 辛辣な言葉で突き放し、この怒りを少しでも解放させてやるのだ。



だいたい女は女であるという事に甘えている。か弱さを武器にし、何をしても許されると。

もし私が女であれば、どれだけ…
いや、それは駄目だな。
それでは私が……
まあそれはいいとして、あの男が女であれば私はこんなに苦しまずにすんだのだ。





出逢った時からこの胸に居続ける、ただ一人の人。

この想いが叶う事は…きっとない。







ギギィ…







どうにもならない事を考えていたせいか、屋上の扉がいつもより重く感じる。
私にこんな手間を掛けさせて、一体どんな女が…







「…お待ちしておりました。」







オレンジ色の夕日を背に、浮かび上がるシルエット。
緊張からか、少し震えるその声は…女のものではない。



だが私は知っている。
その音を鼓膜に刻み、いつかその声に名を呼ばれたらどれほど幸せか…そんな望みを抱いていた。

陽が雲に隠れ、だんだんとその顔が見えてくる。





柔らかそうな頬
輝くような瞳






焼き付く程に、ずっとその姿を見てきたのだ。間違うはずもない。







「さな…田?」


「はい…」







頬を染め、恥ずかしげに下を向く。
ずっと想い続けてきた真田が、私の呼び掛けに…





(か…かわいいッ…)







こんなにも愛らしい姿を、私は今独占しているのか?







「あの…」







な…なんという喜び!
なんという幸せだあァァァッ!!







「あの、某…貴殿にお伝えしたき事が…」


「Σはッ…!」







喜びから我に返り、真田に視線を送る。
そこには軽く上目遣いの真田がいて…







「ぐはッ!!」







だ…駄目だ。
そのアングルは殺傷能力が強すぎるッ!!







「あの… だ…大丈夫で御座るか?」


「あ、ああ。」





しっかりしろ私!真田が不安がっているではないかッ!!
眉を寄せ、こんなにも、こんなにも…







「石田…殿?」


!!!!!!!




石田殿キタ――――ッ!!


ああもう私の人生に悔いはない。
最期に名を呼ばれ、このまま…







「石田殿、某… 貴殿を心よりお慕いしておりまする。もしよろしければ… お付き合い、して頂けませぬか?」


「……」


「やはり、某のような者では…」


「コチラコソ、ヨロシクオネガイシマス。」


「で…ではッ…」







真田の告白があまりにも衝撃的で、その後の事はほとんど覚えていない。



気付けば既に日はどっぷりと暮れていて、夜風が少し冷たい。

だが嬉しそうに綻びる真田の顔を思い浮かべれば、寒さなどどこかへ行ってしまうのだった。

 
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