企画小説

□Lover soul
(慶×幸)
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どうしよう
想いだけが先走りして向かってく、止まらない

この痛い位の胸の鼓動の訳を伝えたくて
きっとその姿を目にしたら、このやわな心臓は張り裂けてしまうかも、それでも

抱きしめたい

こんなに好きなのは君だけなんだって








「ええ?またぁ?」

「ゴメンねぇ風来坊。旦那今忙しい―――ってさ。また来てよ」

「ふーん、昨日も一昨日も忙しいって言ってたよな、俺、幸ちゃんに嫌われてる?」


さぁねぇ。
ニヤッと笑って迷彩姿の忍は姿を消す せっかく会いに来たのにこれだ。いつもは小犬が尻尾フリフリするよう駆けつけてくるのに


寂しいな。

なんて。
どうして思っちゃったんだろう。



最初会った第一印象は柴犬。それも主人にばっか尻尾を振る懐かない犬。

俺自身こんなだから好きか嫌いかはっきり態度に出される 幸ちゃんの場合は後者 はっきり苦手と顔に出されかえって面白く嫌がる彼を構っちゃったんだけど

態度がおかしくなったのはあの…4日前からだ あの夜まで幸ちゃんも俺の話を聞いててくれてて。

酒に誘った。
春の陽気 夜は少し冷えるけど桜を見ながら飲む酒も乙だからね、なんて

正直言うとあの晩幸ちゃんに会うまで俺はしこたま飲んでいた 原因は孫市だ
俺が惚れた好きだって言っても一向になびいてくれやしない
しかも意味の解らねえ事言って煙にまくんだから。 …いや、俺はフラレた。



『孫市いい加減聞いてくれよ、俺はアンタの事がすきで』


『私も好きだぞ、人間としてな。だが貴様がいつまでも物事に捕らわれているうちは私は貴様の言葉を聞きはしない』

『物事…?秀吉の事はカタをつけた、それじゃあ』
『慶次』

厭な目をした。
透徹とした教師、彼女はたまにそんな眼差しで俺に教えを説く 分別めいた謎に満ちた言葉
でもそんな時の彼女は酷く優しく、そして遠い。
俺は叱られた子供のようになり彼女の言葉にじっと耳を澄ませる



『男が女を守りたいという、それはとても素晴らしい考えなのかもしれない。だが私はそんな事をされずとも生きていける。お前の拠り所を他者に求めるのはやめろ。……それより貴様には居心地がいい、他者との繋がりを…依存に頼らぬ関係を築ける相手がいるんじゃないか?』


――――孫市…



知ってるんだよ。アンタはいつだって俺の前を行く 颯爽と何にも省みる事なくさ…
そんなアンタが俺には凄く眩しくて憧れだった


でもそれって辛くない?

きっとそう言ってもアンタは言うんだろうね。



『それが我らの生き方だ』



失恋でもないどこか腑に落ちない気分 彼女の事が好きだった、でも彼女にはそう見えていなかったんだろうか。
自分自身で解らない俺の心の内側


目の前には桜が風に吹かれ花びらが散ってる 何と幻想的な風景 毎年同じはずなのに変わらずこの薄紅の蜃気楼に見惚れてしまう 明日にはなくなってしまうかもしれない夢幻…


ふっと浮かんだのはあの煩い位元気な幸ちゃんの顔だった

―――会いたい
会ったらこのモヤモヤが吹き飛ぶような気がするきっと…


夜半に訪れたに関わらず彼は快く俺を迎え入れてくれた 上田の城も桜が綺麗だから彼の部屋で夜桜を洒落込もうと言って


酒が進む 彼は白い寝間着を着てた いつもは健康的な素肌が月の光に照らされ妙に艶めかしく見えた、細い首 俯いた時の睫毛の影…

俺は幸ちゃんに
桜じゃなく彼に見惚れてた

それで?
それで俺は一体何をした?

彼の細い肩を抱き寄せそして 小さなその顔を覗き込んで




…………………

 
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