企画小説
□紅の遊戯
(政+三×幸)
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政宗殿‥三成殿…
顔を合わせれば、何かといがみ合うお二人であるのに‥
何故こう息がピタリと合ってしまう事が起こるのであろうか。
先刻某のもとに届いた二つの書。一つは政宗殿からで、『新しい料理を考案した。すぐ食べに来い。』というもの。そしてもう一つは三成殿からで、『以前から食べたいと言っていた南蛮の菓子が手に入った。拒否は認めん、すぐに来い』とのことだ。
「………」
政宗殿の手料理に南蛮の菓子。想像するだけでゴクリと喉が鳴る。
なのに素直に喜べぬ‥
だってこの身は一つしかない。両方をお受けするのは不可能だ。
仮に政宗殿をお訪ねし、取って返したとしても奥州と大阪は決して近い距離ではない…
ならば片方を、某に変化した佐助に…
いや、政宗殿や三成殿はすぐに見破られてしまわれる。
ああ、お二人のお誘いが重ならねばこんなに悩む事などないというのに…
北の政宗殿か‥
西の三成殿か…
料理か菓子か…
道は二つに一つ!
………ー―
「はぁ…」
結局、どちらかだけを選ぶなんて出来なかった。料理も菓子も食べられぬのはすごく‥すごーく残念ではあるが…
ぐるるるる〜
ほら、そんな事を考えていれば朝餉を済ませたばかりだというのに腹の虫が騒ぎ出す。
もうこの事は忘れよう‥そう槍を握り、鍛錬のため道場に向かった。
敷地を歩いていれば、何やら騒がしい声が聞こえて来る。
「‥だ…」
この声はそう‥
「‥なだッ…」
三成殿の…
「真田ッ!!」
ああこんなにはっきり幻聴が聞こえるなんて、未練がましいにも程がある。もっと己を鍛えねば…
「聞こえていないのかッ!?真田ッ!!」
グイッ!
「え…」
肩を掴まれる感触は本物だ。まさかと思いつつ振り返れば‥
「三‥成‥殿?」
「この姿が、他の誰かにでも見えるのか?」
この少し不機嫌そうな尖った物言い‥ まさしく三成殿だ。
「どうしたので御座るッ!?突然お越しになるなど!」
「どうしたもこうしたも無い。貴様からの書に、体調が優れぬとあったから‥それで…」
あッ!
そうだ…政宗殿三成殿に出した書に、伺えぬ本当の理由を書けず当たり障りの無い事を綴ったのだった‥
「起きていても平気なのか?」
「それは‥」
「見舞いの品だ。受け取れ。」
「あ‥」
言葉が出ない。体調不良など、嘘だと謝らねばならぬのに…
こうして某のもとに来て下さる三成殿の優しさが、今は胸に痛くて‥
「ふッ‥う…」
「真‥田!? どうした?どこか痛むのかッ!?」
心配して下さる三成殿の声、肩をそっと抱く温かい手… 泣き止まねばならぬのに、甘えてしまう。