企画小説
□存在理由
(半×幸)
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「では僕は、先に休ませてもらうよ。」
「何だ半兵衛、今宵は酒宴だというのにか?」
「ああ、すまない秀吉。今はどんな美酒よりも、僕を酔わせる存在が帰りを待っているんだよ。」
そう‥ あの気高き焔…
「珍しいな、お前が何かに執着するなど。」
「らしくない‥かい?」
「いや、嬉しく思うぞ。お前の瞳はいつも虚無を漂っていたからな。」
「そうだね。でも今は違う‥」
彼の存在が、僕を貪欲にさせるんだ。
失くしていた生への執着を、呼び起こすほどに。
………―――
静かな月夜、人の声は聞こえない。
ここはそう、僕と彼の者だけの空間…
現から切り落とされたようなこの場所の、扉を開くのはまた…
「竹中殿に‥御座るか?」
「聞くまでもないだろう?」
部屋の奥から掛けられた声に短く答える。同じ質問を、何度もされるのは好きじゃないんだ。
「他の誰かを期待したのかい?生憎、僕以外がここを訪れる事はないよ。」
「………」
沈黙は彼の絶望…
いや、そうじゃない。彼の瞳は燦々と光を放ち凜とそこに在る。生きる事を諦めない、生き抜こうとする者の瞳だ。
「また随分と暴れたようだね。君の手の届く距離に、物は置かない事にしよう。」
退屈しのぎに‥と置かれていた書物は、もはや紙屑と化し畳の上に散らばっている。
「…某を、ここから出しては下さらぬのか?」
「君を?」
思ってもみない言葉を掛けられ自然と笑みが零れる。君を手離すなんて、有り得るはずもないのだから…
地を駆ける紅虎を、罠に掛けたのは秀吉の天下の為。幸村君を討ち、武田の戦力を削ぐ目的で…
けれど彼は、今だこうして生きている。足に枷を付けてはいるけれど。
「竹中‥殿?」
「勘違いしては困るよ。君は質ではないし、君の存在はもう死んだものとされているんだから。」
「某が死に‥?しかしこうしてッ…」
戸惑いに揺れる瞳。ああ、君の表情はどんなものでも僕を惹きつける。
「そう、君は生きている。だがそれは武田の将としてではない。ただ僕の、所有物として‥ね。」
「竹中殿の‥」