小説
□不器用な恋愛
(就×幸←親)
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(元就殿…また難しい顔をしておられる‥)
文机に、もうかれこれ長い間向かっている元就を見て幸村は思った。
(政務のお手伝いは、某には出来ませぬ…)
はぁ、と 小さくため息をつき元就から離れた部屋の隅に幸村は、ちょこんと座っていた。
幸村は、武田信玄より暫しの暇を出され、ならば…と恋仲である元就の元へと来ていたのだ。
突然の幸村の訪問に驚きはしたものの、元就は快く出迎えてくれた。
しかし、中国を統べる元就には休みなど、ほぼ無いに等しい。取りあえず、急ぎの政務だけを終わらせようと文机に向かい筆を走らせている。
「…元就殿、少し休まれたほうがよろしいのでは?」
「……。」
「元就殿?」
「…ん? 真田よ。何か申したか?」
「いっいえっ! 何も…」
「そうか。」
短い会話を交わすと、元就は再び政務へ集中していった。
(某の声も届かぬほど…)
知らせも無しに突然来てしまったのは己の我が儘。それでも、少しでも共に過ごせる時間を作ろうと、政務を黙々とこなす元就。
その姿を見ていると、居たたまれなくなってきた幸村はそっと部屋を出た。
「元就殿が頑張っておられるのに、某だけ怠けるわけにはいかぬ。」
幸村は、稽古着に着替えると二槍を握り広い庭に出た。
「日々、精進あるのみっ!」
ぐっと手に力を込め、槍を振るい始めた。
元就の邪魔をしないよう、張る声も控え目に…
「やぁっ!」
「はっはっっ!」
「たぁっーっ!!」
休む事無く槍を振るう幸村だったが、自然と視線は元就の居る部屋へと向いてしまう。
襖が開き、元就が現れるのを今か今かと待っている自分がいるのだ。
(な、何と脆弱な!これでは女子と変わらないではないか!)
否定するようにぶんぶんと頭を大きく振ると、勢い良く槍を突き出した。
瞬間、槍の先に鮮やかな色を纏った鳥が一羽現れた。
「くっ!」
幸村は咄嗟に槍の軌道を変えたが、その切っ先が翼を少し掠めてしまった。
鳥は、バランスを崩しながらも城門の方へと飛んで行く。
「あっ、待たれよ!」
重い傷ではないにしろ、自分が傷付けてしまったのは事実。それに、どう見ても誰か飼い主が居るであろうことは鳥が着けていた装飾品から分かった。なら、尚更放っておくことが出来ず幸村はその後を追いかけた。