小説2

□春待人
(慶×幸)
2ページ/3ページ


いつもあたたかい幸村の唇は、涙に濡れて冷たかった。

泣かすつもりなんて、なかったのに。








「幸村、幸村ごめん。俺は…」


「謝らないで下され。慶次殿は、何も悪くないのですから。」








悪くないわけがない。きっといつまでもふらふらとしている俺に、幸村は心を痛めてる。


俺は幸村が好きで、幸村も俺が好きだと互いの心が分かっているはずなのに…



俺が幸村のそばを、離れてしまうから。








「幸村、俺はね…」


「困らせたい訳ではないので御座る。ただ、ただ…」








うん、そうだね。
俺達はもう分かっているんだ。
ずっとそばに居ることは、出来ない存在なのだという事を。





この手が届く距離にいたい。いつでも幸村に触れていたい。

でも…怖い。





近くにいれば、幸村の傷付く姿を見る事もあるだろう。
そしていつか、戦場に向かう幸村に俺は『行くな 戦うな』と言ってしまう。



幸村の夢を奪いたくはない。幸村の生きざまを否定するような事は…したくない。

けれどそれを見守っていられるほど俺は強くない。だから俺は、ここに留まる事はできないんだ。








「またどこかへ行かれるので御座ろう。ならば今は、拒まないで下され。」


「幸村…ああ。」








幸村もそれは分かっているんだ。だから行かないでくれとも、ここにいて欲しいとも言いはしない。

俺が困らないように。








「幸村…」


「ん…」








額に口付けを落としながら、幸村を優しく抱える。
日はまだ高いから、光から隠れるように奥の部屋へと忍んだ。






………――










「幸村…」


「けい…じ…殿。」








卑怯で傲慢で我儘だとは分かってる。
すべて受け止め受け入れる事が出来ない…という事も。








「う…はッ…あ…」








なのに俺はこうして幸村を求める。
カラダを繋げて、この熱は自分だけのものなのだと言い聞かせるように。








「辛く…ないかい?幸村…」


「辛くなど…あり…ませぬ。ですから、どうかもっと…慶次殿をこの身に刻み込んで下され…」


「ああ…」








愛しさばかりが、次から次へと湧いてくる。離れる時を過ごしても、本当に手放す事なんて…

もう、出来やしない。


もういっそ、幸村から見限って俺を捨ててくれればいい。
俺なんか…








「慶次殿の方が、よっぽど辛そうでは御座らぬか。」


「ゆ…」








肩に幸村の手が添えられ、グッと力が入れられる。
「あ…」と思う間もなく、俺の視界は180度変わっていた。








「そのような…悲しげな顔をなさらないで下され。慶次殿を求めるは、幸村の我儘故に…」


「幸…村…」


「お許し…下され…」








そう告げた幸村は、俯いたまま緩く腰を動かし始める。
繋がった場所は火傷しそうなほど熱いのに、胸の辺りは酷く冷たいんだ。








「ッ…ぅ…」








声を殺して泣いている。
幸村が俺の上で泣いているんだ。

何も言えず、ただ苦しそうに。








「来るべきじゃ…なかった。」


「けい…「壊れるくらい、抱きしめてもいいかい?」








答えを聞かないまま、幸村の身体を激しく揺さぶった。
何も考えず、
ただ、
今はこの熱に埋もれてしまいたくて。

 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ