企画小説

□僕らの青春
(政×幸)
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抜かされる… と思い視線が下がった。
けれど頭に響いたのは、あの低音で…








「政宗…殿ッ!?」


「おッ、やっと口きいたな。」


「『な』では御座らぬ!なぜ政宗殿がッ…」








政宗殿は第一走者であったはず…
それがなぜ…








「このまま、アンタを抜かして俺の勝ちだな。」


「な…」


「考えてばかりいちゃ、始まりもしないうちに終わっちまうぜ?」


「政む…」


「それでいいのかよ?…幸村。」








始まる前から終わる
何もしないまま諦める



この先がどうなっているかなど、誰にも分かりはしないのに。






なのに俺は分からないものを勝手に決め付けて、怯えて…






抜き去って行った政宗殿の背が遠くなる。

一時はそれでいいと、それが一番だと自分に言い聞かせていた。





でも…でもッ…








政宗殿の瞳に、俺を映していて欲しい。
いや、映っていたいッ!!








「政宗殿――――ッ!!」








この手は、まだ届くだろうか…
届いたとして、その先に待つものは…








「幸む…」








だが届かなければ、何もッ…





パンパーンッ!!

わああぁぁぁぁぁッ!








ゴールした合図と、歓声が沸き上がる。

飛び掛かる様に政宗殿に向かって行った俺の体は…








「幸村…アンタ、なぁ…」








尻餅をついた政宗殿に、受け止められていた。








「え…と、今のはどっちが先に…」








すぐそばで、ゴールの係の者の声が聞こえる。


そうだ…
リレーは、ゴールは…








「政宗殿、先に入った…「幸村、逃げるぞ。」





え?逃げ…





ヒョイ!








「!!!?」


「ゴールの時、真田が足を挫いたみたいなんで保健室に連れていきます。」


「某、足など…政宗殿?」


「じゃ、そういう事で。」







スタスタスタスタスタスタ…








え?え?あ…


一体何がどうなっているのか。
分からぬまま、俺は政宗殿に抱えられているだけだった。







………――













何もしないまま逃げ出したくはないと…そう、思いはしたけれど。


こうして政宗殿のそばにいると、どうしてよいか分からなくなってしまう。








「どうかしたか?」


「その…どこまで行かれるのかと。」








保健室のある校舎は、もうだいぶ前に通り過ぎた。

敷地を抜け、今は裏の森まで…








「そうだな、この辺りでいいか。」


「まさ…」


「ここなら、二人だけだ。」








大きな木の根本に下ろされたかと思えば、そのまま政宗殿が覆い被さって来る。

蒼い瞳に映る事を望んでいたけれど、心臓がバクバクいって目を合わせる事さえ…








「俺に…俺に何か言いたい事があるんじゃないのか?」


「あ…」


「幸村。」








やはり、政宗殿は気付いておられたんだ。
俺の胸にある、この穢れた感情に。








「政宗殿、申し訳御座らん。」


「…何を謝るんだ。」


「もう、お気付きで御座ろうが、某は…某は…政宗殿に不埒な感情を抱いておりまする。」


「…」


「幼馴染みとして、友として、良きライバルとしてだけでなく、某は…」


「御託はいい、はっきり言えよ。」








そうだ。
ここまで言って、もう隠す事もない。
どうせ嫌われてしまうならば、この気持ちを伝えたい。

 
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