企画小説

□僕らの青春
(政×幸)
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ドキン、ドキン。









逸る鼓動を抑え、そっとカーテンの中に入る。
いつも顔を合わせ、言葉を交わしているはずなのに、今ここで眠っている政宗殿はまるで別人のようで…








(政宗…殿…)








通った鼻筋、薄い唇。何もかもが綺麗に整っていて、まるで本の世界から出て来られたような容姿。

そんな政宗殿と幼馴染みとして在るだけで、俺は幸せだ。



そう、幸せであるはず…なのに…








この心は、浅ましくも「もっと」と欲する。








触れたい…
触れたい触れたい触れたい触れたい触れたい触れたい触れたい!



今…なら…








ギシ…






ベッドが沈む
距離が縮む



あと、少しで…









「…お前も、ズル寝かよ?」


「!!!!」


「幸村。」


「ま…」








声が出ない。
近すぎる今のこの距離に何か理由を付けなければならぬのに、俺の姿を映す蒼い瞳に言葉すら奪われて…








「顔紅いぜ?腫らしたのか?」


「あ、こ…れは…」








そっと触れてくる…
政宗殿の長い指が。

頬に、顎に…





触れて欲しい…もっと、もっと。








「紅いのは…」


「……」


「腫れのせいだけか?」


「え…」


「幸村、お前もしかして…」


「ッ!?」








引き戻される。夢から現実に。

こんな汚らわしい感情を、まさか…
まさか政宗殿に…









「幸村!」








逃げ出すしかなかった。
あの澄んだ蒼と、響く低音に拒絶されるのがこわくて…コワクテ怖くて。
ただ、逃げ出すしか…







………――














遠くなってしまった政宗殿との距離。
多くを望まぬと、そう決めていたはずだったのに…

自制出来ぬ欲望が、全て壊してしまった。








「真田、また伊達が来てるぞ?」


「……」








話せるはずもない。政宗殿に申し訳ないと思いながらも、話す勇気がない。

はっきりと拒絶されるのは、死刑宣告より重い。





ああいっそ、この姿など無くしてしまえればいいのに。
全てを白紙に戻して、もう一度政宗殿と出会うところから…








………――















「ま…誠に、申し訳御座らん。」


「気にするな。だが真田、アンカーは頼んだぞ。」








結局、政宗殿を避けたまま…
気付けば体育祭当日を迎えていた。





クラス一丸となって皆が頑張っているというのに、俺は足を引っ張ってばかりだ。
その上、自分から避けていた…逃げていたはずの政宗殿の姿を探してしまっている。





諦めたいのに諦めきれない
忘れたいのに忘れられない


嫌いになど、なれるはずもッ…









「紅組!トップでバトンが渡るぞ!!」


「!!」








駄目だ。
また俺は、政宗殿の事ばかりを…








「行け!真田!」

「走れ―――ッ!!」








そうだ。
走らねば…走らねばならない。








「はぁッはぁッはぁ…」








なのに足が上がらない。
心の重しが全身に広がっているようで、体が沈む。








タタタ…タタタッ…








ああ、後ろから追い上げて来る足音が聞こえる。

皆がトップで繋げてくれたバトンなのに、俺はまた…








「…らしくねぇ。『望むところ』じゃなかったのか?」

 
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